撮影システムを構築する

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まえがき

カメラさえあれば映画の撮影を行うことはできます。しかし、映画を効率的に撮影し、また高品質の映像を手に入れるためには、カメラ本体以外に様々な機材が必要になります。わたしたちはこういった機材群をひとまとめにして、撮影システムと呼んでいます。

この記事では、撮影システムを構成する機材それぞれの目的と、調達する際に評価すべき点がある場合についてはそれについても説明します。

また、撮影システムは予算や環境、規模に応じて臨機応変に構築すべき性質のものです。しかし、初めての構築の場合、どのように構築すべきかわからないこともあります。そこで、この記事では前述の内容にくわえて、撮影システムを構築する際に、数ある撮影システムの構成要素を、どういった順序づけで調達すべきかについて、参考としてわたしたちの主観に強く依存して説明します。

なお、この記事では照明機材や音響機材等、撮影に直接関係のない器具とカメラおよびレンズについては扱いません。また三脚をはじめとする架台については現在記事を執筆しています。

フィルタ

フィルタに対する基本的な考え方

レンズの前に取り付け、様々な効果を得るフィルタは画質を低めるため、基本的に装着しないことを強くおすすめします。この考えはレンズの前玉を保護するために使われる可視光線に対して影響も与えないとされるフィルタにおいても変わりません。いかなる種類のフィルタであっても、フィルタ自体を視認できる以上、光線に対して影響を与えないということはありません。

フィルタの形状と大きさ

フィルタの形状には大きく分けて、円形と角形があります。

円形のフィルタは前玉が極端に張り出してさえいなければ、多くのレンズに取り付けることができます。また、レンズに直接取り付けるため、特に他の機材を必要としません。一方で、レンズに切られたフィルタ取り付け用のネジの大きさに応じて、取り付けられるフィルタの大きさが変わってきますので、同等の性能を持つフィルタを大きさ別に複数用意することを回避するためには、直径の大きなフィルタを調達し、より小さなフィルタ取り付けネジに取り付けるためのステップアップリングを併用することが必要になります。また、フィルタの脱着はネジによって行われるため、フィルタの交換には手間がかかります。

角形のフィルタは、基本的にレンズではなくマットボックスというレンズの前に配置する枠に差し込んで使用しますので、円形のフィルタの持つ大きさの問題と脱着の手間についての欠点をほぼ克服しています。マットボックスに取り付けられるフィルタの大きさにも違いがありますが、レンズほど違いが豊富ではなく、4x4インチあるいは4x5.65インチの二種類程度しかありませんし、両方の大きさに対応するマットボックスもありますので、ほとんど問題にはなりません。また、複数のフィルタを組み合わせることも簡単にできます。一方で、マットボックスが必要であり、大がかりになります。また、角形のフィルタのうち、ゼラチンフィルタと呼ばれる樹脂製のフィルタは大変傷つきやすいため、消耗品として捉える必要があります。

NDフィルタ

NDフィルタ
NDフィルタ

4EVの減光を行います。

NDフィルタは光量を減らします。画質を高めるためには撮像感度を最低にし、レンズの絞り値は大抵の場合解放から2段ほど絞った値にする必要がありますし、動画上の動きをなめらかにするためにシャッタスピードをある程度遅くしなければならない映画撮影において、NDフィルタは有用な機材です。

基本的にNDフィルタは減光量が固定ですので、実際に撮影を行う際は、数種類のNDフィルタを用意して、最適なものを使用する必要があります。この手間と出費を回避するためには可変NDフィルタを使用することも考えられますが、可変NDフィルタは減光量を定量的に決定することが難しいため、わたしたちはおすすめしません。

PLフィルタ

PLフィルタ
PLフィルタ

PLフィルタは、ガラスや水などに映り込んだ像を消したり、コントラストを高められます。しかし、効果の大きさが環境に強く依存しますので、過信すべきではありません。

その他のフィルタ

色や光源の形状、質感を変化させるフィルタは数多くありますが、フィルタについての説明をすることがこの記事の目的ではないので、省略します。

記録装置および記録媒体

外部記録装置

カメラによっては映像を外部記録装置で収録することが前提になっていたり、外部記録装置で収録することでより高画質の映像を収録できる場合があります。

記録媒体

フラッシュメモリ等の記録媒体は、可能な限り転送速度が高いものを選択すべきです。

記録媒体は一つあたりの容量にもよりますが、カメラあるいは記録装置に直接装填するためのものと、撮影中に他の媒体に複製をとるためのものと、万が一故障等の問題が発生した場合に備えるためのものの、カメラあたり計三つは備えるべきです。ただし、一つあたりの容量が少ない場合はこの限りではありません。テストを行って、記録媒体が不足して撮影が停止することのないようにすべきです。

電源

電池と充電器
電池と充電器

電池は容量によりますが、最低2つは用意すべきです。また、一つあたりの容量が多いからと言って、数を減らすべきではありません。片方の充電中にもう片方を使用できるからです。

家庭用電源や車載電源等から電源をカメラに供給する場合は、長い電線を使用したことによる電圧降下や、ドラムコードを巻き取ったまま使用したことによって電線の被覆が溶融する事故に注意すべきです。

整備用品

レンズを清潔に保ち、画質を高く保つためには整備用品が必要です。基本的に、清掃をしないでも大丈夫な状態が、保たれていることが望ましい状態です。しかし、現実的に考えて清掃は必要になりますので、埃を除去し、水滴や油脂による汚れを拭き取ります。

ブロア
ブロア

埃がついた状態でレンズを拭くと、レンズに傷がつきますので、先に埃をブロワで除去します。吐息はレンズ表面のコーティングを劣化させるので吐息をブロワの代わりにしてはなりません。はゴム製の物が多く、古くなったり高温と低温を交互に与えられたりすると、内部のゴムが劣化して吹く度にゴミを吐き出しますので、レンズに対して吹く前に、無害な場所に吹き付けてゴミを吐かないことを確かめてから使用します。

クリーニングクロス
クリーニングクロス

埃を吹き飛ばしたら、クリーニングクロスといった呼び方をされる不織布を使って水滴や肌から分泌された油脂などによる汚れを拭き取ります。わたしたちはトレシーという製品を使用しています。

レンズペン
レンズペン

ペンの端にブラシとセーム革が取り付けられています。

レンズの先端から前玉が深く離れている構造のレンズを整備するときは、レンズペンのような製品を使うと整備しやすくなります。

露出計

露出計
露出計

露出の決定をカメラの内蔵露出計に任せると、カメラの内蔵露出計は方式にもよりますが、大抵の場合、露出を設定したい対象に露出を合わせることはできません。

スポット測光を行っても、測光位置が無段階に移動できるわけではないので、誤差が生じる可能性は大きく、またカメラの向きを変えて測光位置を決定すると、構図を一旦破壊する必要があり、効率が低下します。さらに必然的に反射光の露出を計測するため、彩度が低く輝度が極端な白や黒の物体に対する露出を決定しようとすると、露出補正が必要になります。

撮像している映像を画面上で確認して露出を決定しようとする試みもよく行われますが、人間の視覚は体調や精神状態によって変化しますので、頼ることはふさわしくありません。また、正確に色温度を評価された光源下で、色を管理された画面で確認しているわけではありませんし、映像の対数記録を行っている場合は、画面に写された映像を見て露出を決定することはさらに困難になります。ヒストグラム表示は大抵の場合、あくまで画面全体の輝度分布を示すものでしかありません。撮影後の色調補正による露出の修正を見込むことは、画質を放棄したことと同意義です。

以上の理由により、単体露出計を撮影システムに加えることを、わたしたちは強くおすすめします。

露出計にはいくつか種類がありますが、映画撮影の用途に供する場合、入射光式露出計として使えるデジタル式の露出計が、使用者の技倆に左右されないため便利です。入射光式露出計でも、カバーをかぶせることによって反射光式露出計として使えるものもあります。

また映像用に撮影フレームレートを設定でき、フレームレートを下回るために設定不可能なシャッタスピードを指示しないようにできる露出計は、シャッタスピードが設定可能かどうかの判断を人間に変わって行い、感度を上げるか光量を増やすことを暗に指示するため、判断と対応を省略して撮影を効率化できます。

水準器

カメラが水平であるかを調べるためには水準器を用います。水平器やレベルとも呼ばれます。

方式

水準器には液体式と電子式があり、液体式は液体中にある気泡を水準器の中心に揃えることで、電子式は目盛りに従うことで、カメラを水平にすることができます。

形状

液体式水準器には背の低い円柱を上からみて水平を判断するものと、背の高い円柱を横から見て水平を判断するものがあります。前者はすべての方向に対する水平からのズレが一目でわかるという利点がありますが、微妙な調整には向きません。後者は一方向ずつしかズレをみることができないため、正確に水平をとったり、特定方向に傾きを出しやすい利点があります。

電子式水準器は簡単にズレの量が把握できる反面、僅かな傾きを把握できないという欠点があります。

照明

液体式の場合、水準器に照明がついていると、暗所での水平出しに便利です。

気泡

安価な液体式水準器は気泡が分裂し、水平を測ることが難しくなることがあるため、注意が必要です。

フレア防止用の板

レンズ内に斜めの光が入り込み、乱反射して画質を低下させるフレアを防止するために、最も簡単な手段はレンズフードを使用することです。しかしレンズフードは大抵の場合携行性を考えて最低限の大きさになっていますので、環境によってはフレアを完全に防止できません。後述するマットボックスを使用する、あるいはなんらかの板で光を遮ることで、レンズフード以上に効果的にフレアを防止できます。フレアをハレーションとも呼ぶため、それを防止する行為やこういった用途に供する板をハレ切りと呼ぶことがあります。

なお、適当な板をフレア防止に使う場合は、それ自体が光を強く反射しないものである板を選ぶことと、また画面内に侵入しないようにすることについて、注意を払う必要があります。

雨具

雨天時の撮影において機材が故障することを防ぐために雨具を用意すべきです。

カメラとレンズを同時に保護し、かつ視界を確保できる雨具が発売されています。

リグ

リグとは船に対して取り付けられる様々な機材をさす艤装の意で、カメラに対して様々な機材を取り付けるための台となる機材です。

外部収録装置やマットボックス、レンズマウントでは支えきれない大型のレンズを支持するための丸棒や後述するフォローフォーカス、電池など、様々な機材を取り付け、可用性を向上できます。また、把手や肩当てを取り付けて、手持ち撮影の際の安定性を向上させることもできます。

マットボックス

フィルタに記した角形フィルタを取り付ける機材で、リグに取り付けて、レンズの前に配置します。本来はフィルタを取り付けるための機材ですが、マットボックス自体をレンズフードとしたり、前方にハレ切り板などと呼ばれるフレア防止用の光線防止用の板を取り付けることもあります。

フォローフォーカス

レンズの焦点を設定する際にレンズの距離環を直接操作すると特に自動焦点設定を前提としたレンズの場合、僅かな回転角で焦点位置が大きく変化してしまいます。フォローフォーカスには、ひねり操作を行うつまみがついており、これをひねると距離環を回転させることができますが間に減速ギアが組み込まれており、大きな回転角でつまみを操作しても、僅かにしか焦点位置は変化しません。

焦点の精密な制御を可能にするフォローフォーカスですが、元々距離環の回転距離が大きい手動操作用のマクロレンズに使用すると、延々と回転させないと焦点を目的の位置に移動できないという欠点もあります。

映像確認画面の視認性を高める機材

外光の侵入を防止する機材

自己発光型の画面は外光の光量が多くなると視認性が低下するという問題があります。液晶フードなどと呼ばれる映像確認用画面の周囲に取り付ける覆いは、各種の外光の侵入を防止して、カメラの映像確認用画面の視認性を高めます。

拡大鏡

カメラの映像確認用画面は、それほど大きくありません。視認性を高めるためには、カメラに取り付けられる専用の拡大鏡を用いるのも有効です。

電子式ビューファインダ

電子式ビューファインダは機種にもよりますが、映像確認画面の視認性を高めます。また、目元にカメラを押さえつけることになるので、手持ち撮影時に安定性を向上させる副次的な効果もあります。

外付け画面

カメラの映像確認画面が小さい場合は、別の画面を取り付けてしまうのも一つの手段です。カメラのフラッシュライトを接続するためのホットシュー端子等に取り付けることが可能な専用の小型画面が発売されています。ただし、使用するカメラの映像出力機能に対応しているかは確認が必要です。

撮影システムの構成手順

この章にはわたしたちの主観が多く含まれています。

実際に撮影システムを構築する際は最低限必要な、カメラとレンズ、三脚、記録媒体、電源を優先して調達します。また、整備用品と雨具、および水準器は大した出費にならないので調達すべきです。くわえて、フレアを防止するための板は画用紙を段ボールに貼っているだけでも事足りますので、手間を惜しまず用意すべきです。

以上の機材を確保できたら、露出計を調達します。単体露出計はないがしろにされがちですし、特に静止画の撮影を専門とする写真家の中には露出計を使わずに適正露出を判断できることで、自らの実力を誇示しようとされる方がたくさんいらっしゃいますが、そのような価値基準には耳を傾けないことをおすすめします。正常に動作する機械と人間の信頼性の差は比べものにならない程大きく、また故障率も機械と人間の間には大きな差があります。

露出計を確保したら、三脚以外の架台を調達すべきです。固定された三脚だけでなく、さまざまな架台があることは、カメラの機動性を高め、映像の品質をより高めることができます。

レンズを絞り込んで回折ボケが発生したり、シャッタスピードを高めて動きがなめらかに見えなくても、大抵の人は気付きませんので、NDフィルタの優先順位は極めて低くなります。しかし、あれば確実に映像の品質向上が見込めます。またPLフィルタについては、効果が環境に大きく左右されますし、必要のないこともありますので、よく考えて調達すべきです。

外部記録装置や電池が必要なカメラを使っている場合や、以上の機材を確保できた上でさらに焦点の精密な操作に必要な場合、あるいは極めて重いレンズの使用を考えているときは、リグを調達します。また、必要に応じて、フォローフォーカス等も調達します。リグは往々にして映画撮影の必需品のように語られますが、それほど重要な機材ではありません。その機能に比べて不相応に高価ですので、優先順位は低く考えるべきです。焦点の精密な制御については、距離環の回転角が大きい手動焦点設定の標準あるいは望遠マクロレンズを使えば可能です。

むすび

この記事では、カメラとレンズおよび架台を除いた撮影システムの構成要素のそれぞれの目的と、調達する際に評価すべき点がある場合についてはそれについても説明しました。また参考として、わたしたちの主観に強く依存した、撮影システムの構成手順について説明しました。