低予算映画を撮影するために、カメラを調達する

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まえがき

映画を撮影するためにはカメラが必要です。 この記事では、映画撮影用のカメラを調達するにあたって、 カメラの機能や性能のうち、注目して比較すべき事項を示します。

最低基準としてのスマートフォンと資金の投入計画

もしもあなたが何らかのここ数年のうちに発売された、 動画撮影機能を持つスマートフォンを持っていて、 資金的に余裕がないのならば、そのスマートフォンを映画撮影用のカメラとして使用することを強くお勧めします。

スマートフォン用のカメラでも映像は撮影できますし、カメラ一台を豪華一点張りで購入して他の機材に対する投資が疎かにするよりも、 カメラはスマートフォンで妥協して、もしあればカメラアプリケーションと、カメラ以外の撮影機材に資金を投入するほうが、 結果的に良い映像を入手できると考えられます。

特に三脚とステディカム等の制振装置は映像の質を格段に高めます。 もしかすると、手ぶれを含んだ映像の使用を考えていらっしゃるかもしれません。 しかし、手ぶれを含んだ映像を長時間見続けると、乗り物酔いのような症状を現す人がいることも確かですので、 注意して使用する必要があります。

賃借によるカメラの調達

カメラは高価な機材のため、賃借でカメラを調達することを考慮している場合は、 そのカメラを使いこなすために必要な訓練のための期間を賃借期間に含めることをおすすめします。

カメラは多機能な機械であり、機種によって特性が大きく違います。 また撮影時に取扱説明書を開いて手順を確認する余裕を期待するべきではありません。

実際の撮影に臨む前にカメラをよく使い、その機能や個性について知り尽くした状態で撮影に臨めることは、 大変価値のあることです。

また、映画の撮影が予定通りに進まなかったり、再撮影を行うことになることも考慮して、 賃借に必要な予算を計上すべきです。

わたしたちは、撮影技師やその補佐を努める人達にある程度の練度が認められるまで、 カメラは購入して調達することをおすすめします。

媒介変数の手動設定

カメラの挙動を決定する媒介変数は数多くありますが、カメラの多くはこれを自動で設定してくれます。 したがって、使用者は録画ボタンを押すだけで高画質の映像を撮影できます。

しかし、通常の用途ならば便利な、このカメラの媒介変数を自動設定する機能が映画を撮影する際には、 足かせになることが少なくありません。

例えば、人物をカメラの撮像素子平面に対して奥行き方向に配置して、 焦点を移動させることで観客の注視点を変更することを試みる、 フォーカス送りと言われる画面設計は、 頻繁に利用される映画技法の一つですが、 これを確実に行うためには任意の時点において意図した速度で、 焦点を変化させる必要があります。

フォーカス送りの例
フォーカス送りの例

カメラの設定値を自動設定する機能は焦点を、大きく写っている、 画面の中心にいる、近くにいる、あるいは顔として認識できる、といった、 内蔵された、外部から想像することの難しい基準によって、自動的に設定します。 よって、自動設定によってフォーカス送りを実現することは、難しいと考えられます。

また、明度差の激しい環境において、暗部に露出を調整し、 明部を意図的に白飛びさせたり、その逆の露出設定を行うことも、 映画撮影においては珍しいことではありません。しかし、こういった特殊な露出設定を自動設定に頼って行うことはできません。

さらに、自動設定は完璧ではありません。カメラの構造や性質を知らない使用者にとって、 自動設定は唯一かつ絶対の媒介変数設定手段ですし、カメラに詳しい使用者にとっても、 極めて便利な機能であり、映画撮影の際にも役立ちます。 しかし、カメラの構造や性質についてよく理解している人物が調整した媒介変数は、 自動設定による値よりも、極めて大きい割合で良い結果を残します。

以上の理由により、映画撮影の際には手動で媒介変数を行うことが必要となりますが、 媒介変数の手動設定機能を持たないカメラや、あまりに操作に手間がかかり、 効率的に撮影を進めることが難しいカメラも存在するため、カメラを選定する際には、 調査が必要です。

画角

多くの民生用ビデオカメラは遠くにいる被写体、つまり、運動会で出場している子どもを撮影することを 最大の目標に定めているため、設定可能な画角も、それに応じて望遠側に傾いた設定になっています。

一方で映画撮影においては広角側の画角が重要になります。 なぜならば、第一に撮影に関わる人同士の距離の問題があります。 撮影においては、さまざまな人々が緊密に連絡をとりあう必要があります。 距離が離れていると、連絡をとりあうためには、大がかりな設備が必要になります。 したがって、撮影現場は可能な限り狭い範囲に収めることが必要になるため、望遠レンズを使用する機会は減ります。

第二に画質の問題があります。空気は完全に透明ではないので、カメラと被写体の距離が遠ければ遠いほど画質は低下します。

第三に撮影環境の問題もあります。例えば一般住宅で人の全身を写す際に、カメラから望遠気味の画角しか得られない場合は、 住宅の壁を破壊し、場合によっては塀や周りの建物を排除する必要があります。

我々は経験上、映画撮影用のカメラには、広角側の画角として35mm判換算で28mm程度の画角が、 また、望遠側の画角は同じく35mm判換算で150mm程度の画角が必要であると認識しています。

レンズのマウント形式

動画を撮影するために構築する撮影システムに、最適なレンズのマウント形式を選択するを参照してください。

レンズフード

レンズ内に強い光が侵入して画面全体のコントラストが低下するフレアや、 レンズ内で反射した光が画像に残るゴーストを回避するためには、 レンズフードが有効ですが、安価なカメラはレンズフードを取り付けることが想定されていないことがあります。 レンズフードを取り付けることが想定されていないカメラに、レンズフードを取り付けるためには、 カメラリグ等の別の機材を追加して使用することを考える必要があります。

フレアとゴーストおよびモアレの例
フレアとゴーストおよびモアレの例

赤い円で囲った部分がフレア、正面の建物に出ている虹色の模様がモアレ。モアレについては後述します。

なお、この事項については、レンズ交換式のカメラでは考慮する必要がありません。レンズを選択する際に考慮してください。

フレームレート

多くの映画は秒間24コマで撮影されているため、映画らしい映像を撮影したい場合は、 秒間24コマあるいは23.97コマで撮影できるカメラを選択すべきです。

ただし、秒間24コマを越えるフレームレートでも若干の画質低下を許容すれば、あとから秒間24コマに 変換することは可能です。

また、秒間60コマで撮影可能なカメラも増えていますが、 後述するプログレッシヴ記録が可能な場合は、秒間24コマとしてソフトウェア上で解釈させて変換することで、 2.5倍のハイスピードカメラで記録したのと同じスローモーション効果を、少ない劣化で実現できます。

なお、いくつかのカメラは秒間100コマを越える高速度撮影機能を持っており、 これを使うと、強烈なスローモーション効果を得ることができます。

ただし、高速度撮影を行うと画質が劣化するカメラの存在も報告されています。 また、シャッタ速度が高まるため、撮影時に必要と光量、記録媒体の消費量にも注意する必要があります。

コマの記録方式

映像中の各コマを記録する方式には、インターレース方式とプログレッシヴ方式があります。

プログレッシヴ方式は各コマを一枚の画像として記録しますが、 インターレース方式は各コマを水平方向に一画素ずつ分割して、画面の上あるいは下から数えて奇数番目の水平方向画素列と 偶数番目の水平方向画素列を各コマで交互に記録します。

プログレッシヴ方式で記録された2コマの映像の1コマ目
プログレッシヴ方式で記録された2コマの映像の1コマ目
プログレッシヴ方式で記録された2コマの映像の2コマ目
プログレッシヴ方式で記録された2コマの映像の2コマ目
インターレース方式で記録された2コマの映像の1コマ目を再現した画像
インターレース方式で記録された2コマの映像の1コマ目を再現した画像
インターレース方式で記録された2コマの映像の2コマ目を再現した画像
インターレース方式で記録された2コマの映像の2コマ目を再現した画像

インターレース方式は映像を構成する全てのコマの画素数の和をとったときに、プログレッシヴ方式の半分の画素数ですみます。従って、少ない情報量でより高いフレームレートの映像を記録できます。

インターレース方式で記録された2コマの映像の1コマ目を再現した画像から、間引きされた画素列を除去した画像
インターレース方式で記録された2コマの映像の1コマ目を再現した画像から、間引きされた画素列を除去した画像

上に示したプログレッシヴ方式の画像より、明らかに画素数が少なく、情報量が少ないことがわかります。

インターレース方式で記録された2コマの映像の2コマ目を再現した画像から、間引きされた画素列を除去した画像
インターレース方式で記録された2コマの映像の2コマ目を再現した画像から、間引きされた画素列を除去した画像

上に示したプログレッシヴ方式の画像より、明らかに画素数が少なく、情報量が少ないことがわかります。

しかし、間引きしている影響で、インターレース方式はプログレッシヴ方式より画質が低下します。なお、画面に人間が知覚してしまうレベルでちらつきを発生させてしまうため、 秒間60コマ未満のフレームレートでインターレース方式が採用されることはまずありません。

プログレッシヴ方式で記録された映像の一コマ
プログレッシヴ方式で記録された映像の一コマ
インターレース方式で記録された映像の再生時の状態を再現した画像
インターレース方式で記録された映像の再生時の状態を再現した画像

これは静止画ですが、映像になると小さな破綻は気にならなくなります。

プログレッシヴ方式で記録された映像の一コマの一部を切り出して拡大した画像
プログレッシヴ方式で記録された映像の一コマの一部を切り出して拡大した画像
インターレース方式で方式で記録された映像の再生時の状態を再現した画像の一部を切り出して拡大した画像
インターレース方式で方式で記録された映像の再生時の状態を再現した画像の一部を切り出して拡大した画像

上に示したプログレッシヴ方式で記録された映像と比べると、動作の激しいゆりかもめの車体に櫛状の異常が発生していることがわかります。

画素数

映像の画素数は基本的に大きいほど高精細になります。

また、画素数が最終的に作成する映像の画素数を上回る場合は、 切り出しによって撮影後に構図を再調整したり、 レンズの歪曲収差を補正しても、映像が劣化しない利点があります。

ただし、画素数が多いほど記録される映像の情報量は増大し、 記録媒体は高速に消費されます。また、編集時にコンピュータに負荷がかかり、編集効率を低下させる可能性もあります。 録画形式の節も参照してください。

なお、撮像素子の画素数と収録される映像の画素数の違いは、様々な変化として現れます。詳細は以下の節に記します。

画素の大きさと画素の間隔

撮像素子に対して、画素数が多ければ、当然画素ひとつひとつの大きさは、小さくなります。また、画素と画素の間隔も狭まる傾向にあります。画素の大きさが小さくなり、間隔が狭まると、回路が小さくなりますので、画素あたりの電流量の揺らぎも相対的に大きくなり、光子雑音も発生しやすくなります。

これは撮像感度を高めたときに映像上の雑音として現れるのが原則ですが、2014年現在では事情が少々複雑になっています。

まず、雑音は信号処理で軽減することが可能であり、カメラによっては強力な信号処理器を内蔵しており、またその性能は向上する傾向にあるため、新しい小さな画素のカメラの撮像感度を高めて撮影した映像の画質が、古い大きな画素のカメラのそれを上回ることが少なくありません。また、そもそも動画の画質が低いため差違が認められなくなってしまうこともあります。

画素の小さな撮像素子で撮像感度を高めて撮影した映像の一コマ
画素の小さな撮像素子で撮像感度を高めて撮影した映像の一コマ

ニコンD7100を使用し、ISO3200で撮影しています。

画素の大きな撮像素子で撮像感度を高めて撮影した映像の一コマ
画素の大きな撮像素子で撮像感度を高めて撮影した映像の一コマ

ニコンD4を使用し、ISO3200で撮影しています。

画素の小さな撮像素子で撮像感度を高めて撮影した映像の一コマの一部を拡大した画像
画素の小さな撮像素子で撮像感度を高めて撮影した映像の一コマの一部を拡大した画像

色雑音が下に示す画素の大きな撮像素子で撮影したものに比べて若干増えていることが確認できます。

画素の大きな撮像素子で撮像感度を高めて撮影した映像の一コマの一部を拡大した画像
画素の大きな撮像素子で撮像感度を高めて撮影した映像の一コマの一部を拡大した画像

色雑音が上に示した画素の小さな撮像素子で撮影したものに比べて若干減っていることが確認できます。

低周波透過フィルタ

撮像素子に対して画素数が少なく、画素が大きいと、縮小方式の節に記す仕組みによって、細かな模様などでモアレが発生することがあります。低周波透過フィルタ(Low-Pass Filter、ローパスフィルタ)はこの問題を解決するもので、映像を全体的に若干ぼかして、モアレの発生要因となる、高周波成分と呼ばれる画像の明暗差が鋭く現れる部分を潰します。

当然低周波透過フィルタを搭載することで、解像感は失われるため、低周波透過フィルタを搭載しないカメラも多くありますが、モアレの発生確率は高まります。

低周波透過フィルタの要不要は撮影する映像にどれだけの画素数を必要とするかによって変わります。画素数をそれほど必要としない、HD1080p程度であれば低周波透過フィルタを搭載するカメラを選択することを考慮にいれるべきです。低周波透過フィルタを搭載していなくても、それほど驚異的に解像感の変化が映像上に現れることはまずありません。また録画形式によっては、低周波透過フィルタの有無にかかわらず、高周波成分が圧縮によって潰されてしまうことがあります。

録画時間

撮像素子は使用中、発熱します。大型の撮像素子を使用するカメラは、発熱量も大きくなるため、使用時間に制限が課せられていたり、 熱雑音によって画質が低下したり、挙動が不安定になったり、また冷却システムによっては ファンの音が大きくなるといった問題を発生させることがあります。

また、長時間の録画は情報量を増大させます。このため、記録媒体の大きさによって録画時間が制限されることも十分に考えられます。

劇映画を撮影する場合、こまめに電源を切る機会があるので、録画時間は数十分もあれば十分であると我々は考えています。 しかし、劇映画でも長回しの場面や、実録映画などを撮影する場合には、録画時間について注意が必要です。

録画形式

カメラによって記録される映像の記録形式は、 カメラやその設定によって変わります。その違いは、記録媒体の消費量と画質に直接結びつきます。

映像の圧縮

映像は大変情報量が大きいため、記録媒体を消費し、カメラ内の通信量を増やし、 制御に高い計算能力を必要とするため、電力も消費します。 このため、カメラの多くは圧縮された映像を記録します。

映像の圧縮は、様々な技術の集合体ですが、 主に人間の知覚しにくい情報を間引くことによって行われます。

高周波成分の間引き

通常、映像を見る際に画面上のどこに合焦しているかを正確に把握できる人はいません。

撮影した映像の1コマをコンピュータ上で加工し、全体的にボケを付加した画像
撮影した映像の1コマをコンピュータ上で加工し、全体的にボケを付加した画像

この画像は全体的にボケていますが、そのことを瞬時に判別できる人はほとんどいません。

人は、全体的に輪郭線が比較的引き締まったところがないかを探して、 そこに合焦していると把握します。そして、顕著に引き締まっている箇所がなかったり、 合焦を期待される人物の瞳等の輪郭線が他の箇所より引き締まっていない場合に、 ピンぼけと判断します。

この判断基準の裏をかいた映像の圧縮手法の一つに、全体的にすこし輪郭線が緩んでいても、 人は気付かないと想定して、高周波成分を間引いてしまう手法があります。

この他にも映像情報から情報を間引く手法は様々で、圧縮時には一つの方法ではなく、いくつかの手法を組み合わせて行われています。 その上、前述した高周波成分の間引きにおける、除去の対象となる高周波成分の閾値 などの間引きの手法それぞれに固有の媒介変数もあり、個々の間引きの手法によっても、手法において必要な媒介変数の設定によっても圧縮された画質は大きく変わります。

さらに、多くのカメラの製造会社は映像情報の圧縮について、詳細を公開していないため、 実機検証なしで、圧縮された映像情報の画質を比較することは事実上できません。

また、近年のカメラによって行われる映像圧縮は極めて品質が高く、非圧縮収録した映像と見比べても、一目で品質の劣化を判別することは難しくなってきています。

ニコンD7100によって収録した、H.264方式で圧縮された映像の1コマ
ニコンD7100によって収録した、H.264方式で圧縮された映像の1コマ
ニコンD7100によって取得した映像を、Blackmagic Hyperdeck Shuttleによって非圧縮収録した映像の1コマ
ニコンD7100によって取得した映像を、Blackmagic Hyperdeck Shuttleによって非圧縮収録した映像の1コマ
ニコンD7100によって収録した、H.264方式で圧縮された映像の1コマの一部分を拡大した画像
ニコンD7100によって収録した、H.264方式で圧縮された映像の1コマの一部分を拡大した画像
ニコンD7100によって取得した映像を、Blackmagic Hyperdeck Shuttleによって非圧縮収録した映像の1コマの一部分を拡大した画像
ニコンD7100によって取得した映像を、Blackmagic Hyperdeck Shuttleによって非圧縮収録した映像の1コマの一部分を拡大した画像

しかし一方で、より差違がよくわかるように処理を行うと、圧縮による映像の品質の劣化が確認できます。こういった劣化は合成処理などで問題になるかもしれません。

ニコンD7100によって収録した、H.264方式で圧縮された映像の1コマの一部分を拡大し、さらに輝度チャネルを抽出しこれを着色して強調した画像
ニコンD7100によって収録した、H.264方式で圧縮された映像の1コマの一部分を拡大し、さらに輝度チャネルを抽出しこれを着色して強調した画像

圧縮されていない映像と比べて、細かな輝度の変化が失われていることが確認できます。

ニコンD7100によって取得した映像を、Blackmagic Hyperdeck Shuttleによって非圧縮収録した映像の1コマの一部分を拡大し、さらに輝度チャネルを抽出しこれを着色して強調した画像
ニコンD7100によって取得した映像を、Blackmagic Hyperdeck Shuttleによって非圧縮収録した映像の1コマの一部分を拡大し、さらに輝度チャネルを抽出しこれを着色して強調した画像

圧縮された映像と比べて、細かな輝度の変化が記録されていることが確認できます。

色の表現

映像の情報量を削減するもう一つの手法は色数を減らすことです。

わかりづらいことに、一般的に、色の表現については、 人間の知覚しにくい情報を間引いているという点では他の高周波成分の除去などの圧縮手法と同じにも関わらず、圧縮手法として扱われません。

一方で、色の表現についての個々のカメラの仕様は、比較的明らかになっており、 画質に対する影響も大きく、調達するカメラを選定にする際に参考にすることができます。

色差信号の間引き

人間の視覚は明るさの変化に対して敏感ですが、色彩の変化については鈍感です。 そこに着目して、色を輝度と呼ばれる明るさと色差と呼ばれる色彩についての信号に分離し、 色差信号を間引きする手法があります。 この手法を適用するとき、利用される色空間をYUV色空間や YCbCr色空間と呼び、間引きの程度を数値で422あるいは4:2:2などと示します。

間引きは画素それぞれに対応するはずの輝度信号と二つの色差信号のうち、色差信号を適度に記録しないことで 行われ、情報量を削減しています。従って色差信号の解像度が落ちているため、どれだけ色差信号が残っているか、 という情報を色空間解像度などと呼ぶこともあります。

この手法は圧縮方法としては情報量を確実かつ簡単に減らし、 人間の目に知覚される画質に大きな影響を与えないため重宝されており、 カメラによっては色空間解像度を落とすだけで圧縮を終えている場合もあります。

一方で、この圧縮方式は編集時に合成や色調補正を行う場合に問題になります。

YUV422形式は色差信号を画面全体を横方向に走査して、1画素ずつ読み飛ばして、 半分の解像度で記録しています。YUV420形式の場合は色差信号を縦方向にも1画素ずつ読み飛ばして、 1/4の解像度で記録しています。そして、YUV422型式もYUV420方式も、再生時には失われた色差信号を周囲の色差信号から合成して、擬似的に復元しています。 またYUV444は輝度信号と色差信号で情報を保存しているものの、 間引きを行っていないことを示します。

YUV420形式で表現された映像の1コマにおける輝度信号と色差信号
YUV420形式で表現された映像の1コマにおける輝度信号と色差信号

YUV420形式で記録された映像の同じコマから輝度信号Y、色差信号U、色差信号Vを取り出し、それぞれを左、右上および右下に配置しました。この図からは、YUV420形式では、輝度信号Yに対して、色差信号UおよびVの画素数が1/4になっているため、情報量がとても少ないことがわかります

YUV422形式で表現された映像の1コマにおける輝度信号と色差信号
YUV422形式で表現された映像の1コマにおける輝度信号と色差信号

YUV422形式で記録された映像の同じコマから輝度信号Y、色差信号U、色差信号Vを取り出し、それぞれを上、左下および右下に配置しました。この図からは、YUV422形式では、輝度信号Yに対して、色差信号UおよびVの画素数が1/2になっているため、情報量が少ないことがわかります

数多くのカメラがこの間引きを行ってカメラを記録しているため、録画形式を調査するときは、 まずどれだけ色差信号を間引いているか、調べることが重要です。カメラの仕様書の録画形式にH.264、AVCHDあるいはMP4と書かれている場合は、 YUV420とみてまず間違いありません。

RGB色空間

多くのカメラはYUV色空間で映像を記録していますが、撮像素子も、多くの編集用ソフトウェアもRGB色空間で 映像を扱っています。

YUV色空間とRGB色空間の変換には少なからず誤差が生じることがあるため、RGB色空間で記録できる場合は、 RGB色空間で記録することが望ましいといえます。

RAW

撮像素子はRGB色空間で撮像していますが、撮像素子が取得した情報がそのまま記録されているのがRGB色空間によって記録されている 映像というわけではありません。

撮像素子は光の強さを取得しており、ほとんどの撮像素子は各画素において一色の光しか取得できません。RGB色空間によって記録されている映像は、 隣り合う地点で取得された赤と緑そして青の各色の光を合成して作り出された画素によって構成されています。 これは単に色信号を組み合わせているわけではありません。撮像素子は肉眼と違ってあらゆる波長の光をまんべんなく取得しますし、 雑音を含み、また出力されるRGBの各成分とは違うビット数で光量を量子化しています。 ですので、肉眼で視認したのと似た映像を作り出すために、俗に現像処理と呼ばれる 様々な演算が行われて、撮像素子が取得した情報はRGB色空間の画像に変換されています。

撮像素子の取得した情報をそのまま記録すると、より多くの情報を取得できるため、編集時に色を操作して、 より高画質の映像を作成できます。この撮像素子の取得した情報をそのまま記録する形式をRAWと呼びます。

外部出力

カメラの内部で記録する際の方式とは別に、圧縮される前の映像を外部に出力することのできるカメラもあります。

これと収録機器を組み合わせて利用することで、圧縮する記録方式にしか対応していないカメラでも、 非圧縮で記録できる場合もあります。

映像の圧縮に関するその他の事項

ビットレート

圧縮された映像の画質を推し量るための値として、ビットレートを使用することが多々見受けられますが、これには十分な注意が必要です。

ビットレートは映像を圧縮する際に、一般的に1秒間の映像に割り付けられるデータの 大きさを示した値です。当然、データ量が大きいほど映像は非圧縮のそれに近くなり、 高画質になりますが、それは圧縮を行うエンコーダが同一の条件の場合に限ります。

なぜならば、エンコーダはそれぞれ、映像から人間が知覚しにくい情報を間引く際に、 違う手法を用いていますし、違う考えで間引きを行うからです。 ですから、エンコーダによって、同じビットレートの設定でも画質には差が出ます。

また、ビットレートが同じで画素数が違う場合、画面解像度が大きい方が 非圧縮の映像に比べて大きく劣化していることになります。

イントラフレーム

映像の情報量を間引きする、普及している手法の一つに、映像を構成する各コマ間の差分をとって、間引く、フレーム間予測とよばれる手法があります。

このとき、単体のコマで映像として表示可能であるコマを、イントラフレームと言いますが、 カメラによっては映像の圧縮について、すべてのコマがイントラフレームであることを 謳ったものがあります。

つまりこれはコマ間予測による間引きを行っていないことを示します。 フレーム間予測を行わなず、データ量を増やすことは単に画質の面で有利ですし、 一つのイントラフレームが何らかの理由によって喪失した場合に、そのイントラフレームに依存するコマのすべてを失う、 という問題を回避できます。

色彩設定と対数記録

大抵の場合、撮像素子が取得した光の量子化ビット数は、映像として記録されるRGB色空間の各成分に割り当てられたビット数を大きく上回るため、 RAWで記録する場合を除いて、カメラは光の階調幅をある程度捨てて記録しています。 しかし、光の階調幅が広ければ、露出を画面の部分によって任意に再設定することも可能になります。

一方、多くのカメラには、いくつかの種類の、現像処理における色彩の表現に関わる媒介変数の設定が内蔵されています。 これを変更すると、画面をより鮮やかにしたり、逆に淡くしたりすることができます。

この色彩設定に関わる媒介変数を利用して、現像処理によって失われる光の情報を強引にRGB色空間に押し込めるのが、 LOG記録と呼ばれる対数を用いた色彩の記録方法です。

対数記録された映像は一見汚く、肉眼で視認した色彩とはかけ離れた色彩になりますが、 カラーグレーディングによって、色彩を肉眼で視認した色彩に近づけることができます。

対数記録した映像の1コマ
対数記録した映像の1コマ
対数記録した映像の1コマをカラーグレーディングした画像
対数記録した映像の1コマをカラーグレーディングした画像

対数記録を行える、と銘打っていないカメラであっても、現像処理の色彩設定を自分で調整できるカメラであれば、対数記録用の設定を作ることが可能です。また、対数記録用の色彩設定が配布されている場合もあります。

キヤノン製のカメラ用の対数記録用色彩設定として、 仏Technicolor社が提供する、Technicolor CineStyleが有名です。ソニーではS-Logという名称で対数記録用の色彩設定を提供しています。

縮小方式

多くのカメラにおいて、撮像素子の画素数は記録される映像の画素数を上回っています。

したがって、映像を記録する際には、なんらかの手法を用いて、画面を縮小しますが、 その際に選択される手法によって、記録される映像の画質には変化が生じます。

画素読み飛ばし

ラインスキップとも呼ばれる方式では、撮像素子から、映像の記録に必要な画素数と同じ数だけの画素を読み取る方式です。

この方式では読み取る画素間にある画素の影響を考慮しないため、画面が不連続になります。 これは、特に画面の細くはっきりとした線が多い部分で、記録される映像に顕著な影響を示し、 それはモアレと呼ばれる異常として発現します。

加算平均

ビニングとも呼ばれるこの方式では、画素読み飛ばしと同じ画素を読み取りますが、 その際に読み取る画素の上下左右の任意の距離にある画素を同時に読み取り、 それらの値の加算平均をとる方式です。

この方式は画素読み飛ばしに比べて、画素間にある画素の影響を考慮しますので、 画面が不連続になる問題は若干改善されますが、単なる加算平均ですので、 解像度が低下するという問題があります。

8近傍画素混合

単に画素混合あるいは9画素混合と呼ばれるこの方式でも、画素読み飛ばしと同じ画素を読み取りますが、 その際に読み取る画素の上下左右斜めにある画素を読み取って、 補間処理を施して画素を生成する方式です。

この方式は良好な結果を示しますが、一方で撮像素子中に組み込む回路が肥大化するという問題があり、 写真撮影用のカメラでは使用されない傾向にあります。

モアレの発生の原理を現した図
モアレの発生の原理を現した図

撮像された画像①の画素読み飛ばしによる縮小が、条件が揃うと、本来存在しない幾何学模様を映像に発生させる異常を起こすことが、⑤からわかります。しかし、画素を混合して縮小すると、ある程度その異常が軽減されることが⑦からわかります。実際にはより高度な計算を行うため、より異常は低減されます。これは極めて単純な例で、極端に発生した例がレンズフードの項に示した図です。

内蔵NDフィルタ

レンズの最高の性能を引き出すためには、絞りを開放から1あるいは2段絞ることが必要になります。 また、映像をなめらかに繋ぐためには、シャッタ速度を最短でも1/120秒程度に抑えることが必要になります。しかし、 光量が多すぎて、撮像素子の感度を低めても露出過多になる場合は、NDフィルタを使用して光量を減らすことが必要になります。

内蔵NDフィルタを持つカメラは、レンズの前にねじ込み式のフィルタを取り外しする作業を廃して、 設定一つで光量を変化させることができます。

撮像素子を構成する半導体の種類と電子シャッタ方式

データに基づいてレンズを評価するも参照してください。

動画を撮影する場合、デジタルカメラは機械式シャッタではなく電子シャッタを用いますが、 多くのカメラで採用されている半導体である相補性金属酸化膜(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor:CMOS)を用いた撮像素子は、大抵の場合、全画素を一時に読み取るのではなく、 水平の画素列を垂直方向に順次読み出す方式で画素を読み出しています。

CMOSを用いた撮像素子は、その動作の性質上、電子シャッタを全画面に対して一時に作用させることができず、動作も遅いため、最上端あるいは最下端の水平方向の画素列を読み取る時点と、最下端あるいは最上端の水平方向の画素列を読み取る時点に若干の時間差があり、高速に画面を横切る物体が歪むローリングシャッタ現象や、フラッシュライトのような瞬時に明滅する光源を使用すると画面を縦に分割する激しい明るさの差が現れるフラッシュバンド現象という問題が現れることがあります。

ローリングシャッタ現象の例
ローリングシャッタ現象の例

電車の車体が平行四辺形に変形しているのがローリングシャッタ現象と呼ばれる異常です。

フラッシュバンド現象の例
フラッシュバンド現象の例

撮影中にフラッシュライトを明滅させたため、画面の上下で明るさに激しい差が生じるフラッシュバンド現象が発生しています。

以前は多くの撮像素子で採用されていた半導体である電荷結合素子(Charge-coupled Device:CCD)を用いた撮像素子や一部の高価なCMOSを用いた撮像素子が採用するグローバルシャッタは、 全画素を一時に読み取りますので、動体歪み等の問題は発生しません。

記録媒体

映像を記録する媒体によっては、調達が困難であったり、高価であることがあります。

重量

三脚や制振装置は積載できる重量に制限があります。また、三脚の場合は、 カメラが軽い方が安定する傾向にあります。

さらに、人力によって保持される制振装置を使って移動撮影を行う場合、 ベスト等を使用しないと、カメラの重量によっては、体力的にカメラの保持が困難になる可能性があります。

大きさ

カメラの大きさはカメラの機動力に直結します。頭に取り付けられる小型のカメラを使えば、装着者の視点に近い臨場感のある映像を撮影することができます。

ゴムと位置決めピン

カメラの底面にゴムが貼ってあると、カメラが雲台上で回転することを抑制できます。 また位置決めピンを挿すための穴があれば、完全にカメラを雲台上に固定できます。

特に制振装置を使用する際は、雲台上でのカメラの回転を抑制できないと、重心が変化してしまうため、 制振効果に大きな影響を与えます。

マルチカムシステムと予備機

複数台のカメラを同時に使用するマルチカムシステムは、カメラ以外にも三脚や撮影技師など多くの資源を複数必要とします。しかし、役者の演技を断ち切らないため演技を尊重しながらも、 カットを割ることができます。また、予備の映像を取得できます。これは特に一度しかできない性質の 撮影において威力を発揮します。

また、複数台カメラがあることは、カメラ自体の予備機があることを意味します。

したがって、カメラを調達する際にある程度余裕がある場合は、複数台の調達を考慮に入れることをお勧めします。

なお、別種のカメラを複数台調達する際は、カメラ間の画質の差を収斂する方法について 検討する必要があります。

マルチカムシステムの詳細については、撮影における様々な利点を得るためにマルチカム撮影を行うも参照してください。

音響

カメラ内蔵の録音機能は、特にマイクの品質において場所や指向を変えられない、風切り音を録音してしまう、といった問題を持つことがあるので、 マイクを接続して録音できることや、その音をヘッドフォンで撮影時に確認できることは、 特に実録映画を撮影する際に重要です。

ただし、真に高音質で録音したい場合は、専用の録音機器を用意して録音し、編集時に合成することが望ましいといえます。 また、劇映画の場合、音をすべて後から追加することを考慮すべきかもしれません。

その他

相性

カメラ単体で機能が完結しない場合、特にカメラの製造会社のサポートが受けられない機器の組み合わせで機能を実現する場合は、機器間の相性による問題の発生について考慮すべきです。

実際に使用しないとわからない情報

我々はニコンイメージングジャパンのD7000が、絞りを手動設定して動画を撮影することはできるものの、動画撮影時に使用するライブビューモードにした状態で、 絞り値を変更できない仕様になっていることを知っています。

また、この記事に書いてある様々な比較点についても、公式の情報がない場合は多々あります。

このような、カタログには載っていない様々な落とし穴があることも十分考慮して、 この記事に限らず、日頃からカメラの批評記事等の情報源に目を通して、他機種にあった問題が自分の選定中のカメラにないかを確認するよう心がけるべきです。

静止画画質と動画画質の違い

デジタル一眼レフカメラの動画撮影機能を使用した映画撮影は2014年現在の低予算映画撮影において一般的ですが、画質についての評価を知るために静止画画質の評価を参考にすることはあまりおすすめできません。これは、多くのカメラの動画画質が、静止画画質のそれを著しく下回り、まったく違う傾向を示すためです。

静止画として撮影した画像を、動画と同サイズに縮小した画像
静止画として撮影した画像を、動画と同サイズに縮小した画像

なお、完璧に同じ発色を得ることが難しいため、RAW画像を手作業で若干修正し、下に示す動画のそれに近づけています。

動画として撮影した映像の一コマ
動画として撮影した映像の一コマ
静止画として撮影した画像を、動画と同サイズに縮小した画像の一部分を切り出して拡大した画像
静止画として撮影した画像を、動画と同サイズに縮小した画像の一部分を切り出して拡大した画像

下に示す動画のそれよりも、細かく像が描写されていることがわかります。

動画として撮影した映像の一コマの一部分を切り出して拡大した画像
動画として撮影した映像の一コマの一部分を切り出して拡大した画像

上に示した静止画のそれよりも、細部の描写が甘いことがわかります。

むすび

この記事では、第一にカメラを豪華一点張りで調達するより、良い周辺機器を揃えることも考慮して調達するカメラを選定すべき という価値基準を示し、続いてカメラを賃借によって調達することについての注意点を示すと同時にカメラは購入して調達することを勧めたあとに、 映画を撮影するために重要となる、様々なカメラの比較点について述べました。

また、それら比較点がすべてではないことと、比較点には公式の情報がない場合も多く、調査が必要であることを記しました。

一部の画像は「2013年度試験映像製作計画」の成果によるものです。

一部の画像はKOMADORIによって生成されました。