絵の描けない素人が嘘をつくためにアニメを作る

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まえがき

わたしたちは、2016年のエイプリルフールは2015年のエイプリルフールに公開した君だけの、特別な一人になるためにのアニメPV、THE NAME OF THE HEROINE PV 1を制作しました。この記事では、絵が描けないまったくの素人が、アニメを作ろうとするとどんな悲惨なことになるか、どんな苦労をする羽目になるか解説します。

なお、記事の肥大化を極力避けるため、基本的なソフトウェアの操作などの記述を省略しております。

参考までに記しますとこの作品は、CLIP STUDIO PAINTの「うごイラ」機能や、Adobe Photoshop、ImageMagick、Apple MotionそしてApple Final Cut Pro Xに加え、自作プログラムを投入して制作されました。作画はすべてコンピュータ上で行ういわゆる「デジタル作画」で、描線の入力にはIntuos Proを使用しました。制作を担当した人間は一人で、その画力の水準はご覧のとおり極めて低く、Pixivなどでは「底辺」に分類される、つまり「絵が描くのが趣味なのね」程度の能力しか持っておりません。

全体の課題

アニメというものは「たくさんの少しずつ違った絵をすばやく切り替えて動いているように見せかける」ものです。したがって、わたしたちは「いかにたくさんの絵を効率的に生産するか」という課題を解決しなければなりません。もちろん、手で書いていけば良いのですが、それでは時間が足りません。製作開始は1月でしたから、3ヶ月ですべての絵を作る必要があります。実際は、遊んだり、風邪をひいて倒れたりするでしょうから、2ヶ月未満の製作期間しかないと考えて良いでしょう。

内容による作業量の低減

カットの選別

まずできることは「作りづらいカットは最初から作らない」ということです。「THE NAME OF THE HEROINE」の第一節「わたしと、君のために」の絵コンテから「できるだけ作りやすいカット」を3つ抽出しました。人が喋っているだけので口パクだけで済むカット、頭や腕をちょっと動かすだけのカットなどです。

これらは、第一に動く部分が少ないので、何枚も絵を描くにしても、描くべき線の総量が減ります。第二に、そもそもの絵の難易度が低いので、描くために労力を要しません。どちらも、pixivなどのお絵かきSNSでは底辺をひたすらに走り続け、同人誌即売会ではかろうじて2桁頒布できる程度の画力しか持たないアニメータしか動員できない状況下では大変重要です。

ただ、いろいろ試したかったので、極めて簡単な平面的な口パクから、ちょっとした奥行きと連携した関節の動きがあるものまで、いろいろ混ぜて抽出しました。また、「THE NAME OF THE HEROINE」という作品の特徴を端的に表すカットが欲しかったので、1カットだけ難易度に少し目をつむって抽出しました。

絵柄の変更

最新の「THE NAME OF THE HEROINE」のイラストは、かなり色数や線数が多く、アニメで動かそうとすると大変な労力を要することが明らかなので、絵柄を変えることにしました。まず、瞳の中のハイライトの多さが線量を増大させているため、目を縮小し、簡単に描けるようにしました。また、髪束の数も減らして、線量を減らしました。耳も同様に簡略化し、さらに、シャープな線を減らすようにしました。できるだけ突出部が丸いほうが、動かした時の違和感を減らせると考えたからです。

最新のTHE NAME OF THE HEROINE関連のイラスト
最新のTHE NAME OF THE HEROINE関連のイラスト

椛沢がより短髪になっているのはともかく、線の数も色の数も多く、忠実にアニメ化しようとすれば明らかに無理があります。

彩色における作業量の低減

彩色における問題

大量の絵を作るには、単に線を引くだけでなく、色を塗ることが必要です。しかし、単純にお絵かきソフトで絵を描いて、バケツツールで色を塗ろうとすると、問題が発生することは、2014年のエイプリルフールに公開した転送装置試験零号の段階でよくわかっていました。

具体的な例を出すと、私達が作画に使っているCLIP PAINT STUDIOの場合、単純に細いペン先で線を描画しても、描線をなめらかにする処理がかかるため、半透明の色が先の周囲に配置されます。そうなると、塗りつぶし処理は半透明の色の周囲までにとどまるため、描線で区切られた空間をしっかりと色が埋めてくれるわけではありません。次に示す画像からは、ふたつの線が交差する部分においてバケツツールでは塗り漏れが出ることがわかります。

アンチエイリアスのかかった線画にバケツツールで色塗りをしたときの色漏れの例
アンチエイリアスのかかった線画にバケツツールで色塗りをしたときの色漏れの例

転送装置試験零号の際は、塗り漏れをすべて手作業で始末していましたが、そんなことをしている時間はありません。なんとしてもバケツツール一発で塗りきる必要があります。バケツツールの設定値を事細かに調整すれば凌げるかもしれませんが、あらゆる状況に対応できる設定値を探りだす余裕もありません。

参考にした対処方法

この問題に対処する方法を検討するにあたって参考にしたのは、TVアニメーションSHIROBAKOの13話から放送されたエンディング映像と、ezBlogの記事、未来のペイントです。

SHIROBAKOのエンディング映像においては、キャラクタの絵が作られていく様子が描写されますが、56秒あたりからの色塗りの段階においては、黒か透明かのどちらかしかない線画に色が塗られていくことが確認できます。この状態であれば、前掲の問題は発生せず、隅々まで色が塗られることは明らかです。さらに、次にはなにか魔法がかけられて、ぎざぎざになっていた線画がなめらかになっていく様が描かれています。この魔法についてはあとでなんとかするとして、とりあえず基本的な流れはわかりました。

またezBlogにおいては「線画を二値化して流し込みのペイントを容易にして、撮影で二値化のジャギーを消す処理(スムージング)をおこなう方式」と書かれているので、この方法は別にアニメの演出上の「魔法」ではなくて、実際の現場でも使われているらしいということが推測できます。「二値化をせずに、線画の繊細なニュアンスを殺さずに活かしたままペイント作業をおこない、そのニュアンスを活かしたまま撮影もおこなっていました」ともありますが、そもそも絵が描けないのに無理をして作ろうとしている状況下において、ニュアンスなど気にすることではなく、繊細な違いがあるとしてもわたしたちの場合それは描線の質が低いだけであると判断し、この方式を採用することにしました。

線をなめらかにする処理

線を黒か透明かの2色で描く方式、つまり「二値化された線画」においては、斜めの線がぎざぎざになります。これを後処理で対処するために、わたしたちはふたつの手段を講じました。

第一に、絵を構成する画素数を、縦横共に最終出力の2倍で描画し、最終段階で縮小処理をかけました。このとき縮小処理を最近傍画素法でない別の補間方式、例えば線形補間法等を用いることにしました。そうすれば、斜めの線を描画するために適当な混合が行われます。すると、潰されるべき細部、すなわちこの場合は「不要なぎざぎざ」が潰れてそれらしく見えるだろうという判断です。

2倍の大きさで描いた線画を50%に縮小して、斜めの線をなめらかにすることを図った例
2倍の大きさで描いた線画を50%に縮小して、斜めの線をなめらかにすることを図った例

第二に、線画レイヤを複製し、これに5ピクセルのガウスぼかしをかけて乗算合成することで、線とそれ以外の部分の明瞭度をなだらかにして、線をなめらかにすることにしました。

前掲の画像にさらに5ピクセルのガウスぼかしをかけた線画を乗算合成することで、さらに斜めの線をなめらかにすることを図った例
前掲の画像にさらに5ピクセルのガウスぼかしをかけた線画を乗算合成することで、さらに斜めの線をなめらかにすることを図った例

なお、第二の方法だけで線をなめらかにしようとすると、線が太くなりすぎるので避けました。

縮小処理を行わず、ガウスぼかしした線画の乗算合成だけで線画をなめらかにすることを試みた例
縮小処理を行わず、ガウスぼかしした線画の乗算合成だけで線画をなめらかにすることを試みた例

あまりに線画の線が太くなりすぎるためこの方法は不採用としました。

塗り分け線とハイライトの処理

彩色は単に黒い線で区切られた部分に色を塗ればいいというものではありません。影になっている部分は、最終出力の絵には残らない線で区切られ、彩色することになります。実際の商用アニメの原画を見ると、こういった塗り分けのための線は、黒以外の違う線で描かれています。これを参考に、今回は影になる部分を青い線で区切って描き、明るくなる部分を赤い線で区切って描きました。また、髪の毛のハイライトは、赤い線で描いておいて、後で撮影処理のマスクとすることにしました。

塗り分け線を用いて実際にバケツツールで塗る際は、すべての工程において塗り分け線の影響を受けさせると、線の部分が透明になって残ってしまいます。SHIROBAKOの劇中では先に影部分を塗っていたので、これを参考にして先に塗り分け部分を塗って、塗り分け線を除去し、それから残りを塗ることにしました。

塗り分けの工程を表したアニメーション
塗り分けの工程を表したアニメーション

二値化とレイヤの分離

線を二値化し、かつ塗り分け線を使って色を塗っていく、今まで検討した方式を実施するためには、線を色ごとに分離して二値化して、さらにレイヤに分けるなどして、塗り分け線の影響を任意に切り替えることができるようにしなくてはなりません。

例えば作画に使っているCLIP PAINT STUDIOではざっとみたところ、 二値化を実施する方法は調整レイヤによるもので、これは絵を色に関わらず白黒で二値化してしまいます。これでは目的を達成するのに大変な手間がかかってしまいます。Photoshopではそもそも二値化をするのに大変な手間を必要としました。また、塗り分け線を別レイヤで描画すると、不適切なレイヤに描いてしまう可能性があり、事故が頻発することが予想されます。そもそも、CLIP PAINT STUDIOのアニメーションフォルダが増えてその取り回しに困っていたわたしたちには、一つのレイヤに様々な色で線を描いても、それを色ごとに分離して、二値化してレイヤを分けることのできるツールが必要でした。

今回はもしかするとCLIP PAINT STUDIOやPhotoshopでも簡単にやる方法があるのかもしれませんが、そんなことを調べているより、やりたいことはわかっているので、必要なプログラムを書いたほうが早い、という判断を下しました。

プログラムの実装

Mayakaは、Common Lispで書かれた画像処理ライブラリで、簡潔に高速な画像処理を実装することができます。これを使って、CLIP STUDIO PAINTから書きだした各コマの線を色によって分離してそれぞれ二値化したファイルを出力するプログラムを実装しました。

プログラムへの入力画像
プログラムへの入力画像

一つの画像に様々な色で線が描かれています。

こうして出力されたファイルをPhotoshopの「ファイルをレイヤーとして読み込み」を使って再構成することで、一枚のレイヤに何色かで描かれた線画を色ごと二値化し、レイヤに分離した画像として扱うことができるようになります。

da-program-output-line da-program-output-highlight da-program-output-shadow

これを用いて色を塗ったあと、Photoshopから出力したPSDファイルを再度レイヤごとに別画像として分離し、Apple Motion上で背景と合成してカットを仕上げました。下に記すコマンドは、ImageMagickを用いて、ディレクトリ内のすべてのPSDファイルからレイヤをバラバラにして、それらをPNGファイルで出力するコマンドです。

mogrify -set dispose Background -coalesce -format png *.psd

彩色部分を抽出した画像
彩色部分を抽出した画像

主線とエフェクト用マスクと共にMotionに取り込んで撮影処理します。

カット別の作業

この章では各カットの解説をしていきます。なお、解説の順番は登場順で、作業順ではないことをことわっておきます。

s001c020 喋る仁科

絵コンテとカット内容

20s001c020の絵コンテ用画像。左を見て話している仁科。

仁科。

仁科「やっぱ失敗だったんじゃないの?」

最初の仁科が喋るカットは三枚の画像を入れ替えて表示させているだけの口パクカットです。絵コンテにおいて仁科は髪を下ろしていますが「朝結い上げてから来て、練習が終わったら解く」という設定が追加されたので、完成映像では結い上げています。

基本となる絵

まず、ざっくりと絵を描きました。ただ描くだけです。ただ、背景のラフとキャラクタは別のレイヤで描きました。この時点でネクタイを描き忘れているのですが、それに気付いたのは納品ギリギリのタイミングだったので、そのままになりました。

s01c020の基本となった絵
s01c020の基本となった絵

口パクの試験

「口が開いたり閉じたりすればいいだろう」という判断に基づき、画像を複製して口のところだけを開くように描き直し、口パクを作ってみたところご覧のように悲惨な出来となりました。

2コマで作ってみた口パク
2コマで作ってみた口パク

口以外のところも変わっているのは、このあとの作業で修正を施したためです。口だけ見てもパカパカと口が気持ち悪い動きをしており、とても見られたものではありません。

修正の参考のために、TVアニメを適当にコマ送りで再生してみたところ、喋る時の口パクは3コマで描かれていることがわかりました。これに倣って間に半開きの口の絵を挟んでみました。また、単に閉じ口と開き口を切り替えるのではなく、半開きの口と切り替えて喋らせていることがわかったので、そのようにしてみました。

3コマで作ってみた口パク
3コマで作ってみた口パク

3枚の絵を単純に繰り返して入れ替えるのではなく、いきなり開き口と閉じ口を切り替えないという法則をつくり、その中でランダムに入れ替えて喋らせています。2コマで作った口パクよりずっと自然に見えることがわかると思います。

さらに、開き口が大きく開きすぎていたので、最終的にはより閉じ気味の絵を作ることにしました。

セルの分割

このカットの場合、可動部分は仁科の口だけですので、口とそれ以外の部分は別のレイヤに描きました。また、仁科が顔の横に垂らしている髪の毛は別にしておかないと、後々面倒になりそうなので、髪部分は腕の下に伸びている部分を覗いて、別レイヤにしてあります。

実際に使用されたs01c020のセル群
実際に使用されたs01c020のセル群

このように3つに分割したものを合成して、動くところとそうでないところを分けています。

背景の製作

単にアニメを作るなら、いわゆるセルの部分だけでよいのですが、背景も作りたかったので作ってみました。

全く絵心がないので、基本的には小学生のように青いところは青を塗る、茶色いところは茶色くする、ぐらいのことしかしていません。教室内の背景は、少しでもマシに見えるように、汚れを描いてみました。窓の外のビル群は、適当に長方形ツールを使って描いた後、少しでも硬さがほぐれるようにと思って、色の違いが出るように適当に塗りました。

夏の昼休みの教室なので、外が明るく、室内に濃い影を落とすことで日差しを表現してみました。特に日の当たらない廊下は一番暗くしました。単純にそうすると日差しの強さがわからなかったので、手前にだけ少し光をさしてみました。また、遠景のビルは、いくつかのアニメの背景を見たところ、近いところには影を落とし、遠くのところは白っぽくする、ということをしていたので、やってみました。

また、そうするとカメラは南から北を向いているようになりますから、一番外光が入らない廊下が暗くなります。これを含めて全体の色調を最終的に調整するために、教室内の背景、廊下の背景、外の背景、空と4つの背景をバラバラに出力してMotionでの撮影処理に使用しました。

分割して出力された背景画像
分割して出力された背景画像

撮影処理

まず、すべての要素を最終的に半分の大きさに縮小するためのグループを作りました。背景やそれぞれのセルをバラバラに縮小すると、輪郭線が透明な部分と混じってしまい、透明な線が描かれて違和感が出ることが容易に想像できたためです。

すべての要素を取り込んだあと、適宜色調や明るさを調整して、可能な限り違和感が小さくなるように調整しました。

s008c044 顔を上げる椛沢

絵コンテとカット内容

44s001c020の絵コンテ用画像。左を見て話している仁科。

俯き加減で待っている椛沢

浪川「あ、島津。今来たんだ?」

その声に顔を上げる椛沢

椛沢が顔を上げるカットは実はもっと寄っていましたし、そうでないとカットがつながらないのですが、寄った状態で頭を回転させる大きなアニメーションをすると、作画能力の低さも拡大されて出力される可能性が高かったため、かなり引いています。

アニメーションの試験

このカットが一番最初に作ったアニメで、参考にしたのは「劇場版ガールズ&パンツァー」の冒頭です。大洗市街戦のシーンで、役場前でクラーラと会話しているノンナがカチューシャに「ノンナ!」と呼ばれた時、顔を上げる前に、一旦目を閉じているのを見て、これをそのままやれば上手くいくに違いないと考え、まず4コマで作ってみました。

また、様々なパターンを試験して、一番違和感のないタイミングを探っていきました。また、その過程で絵も修正を加えていきました。各フレームで線の色が違うのは、複数の原画を半透明にして重ねてみた時にどれだけ違いがあるか確認するためです。

s008c004の試験映像、1版
s008c004の試験映像、1版
s008c004の試験映像、2版
s008c004の試験映像、2版
s008c004の試験映像、3版
s008c004の試験映像、3版
s008c004の試験映像、4版
s008c004の試験映像、4版
s008c004の試験映像、5版
s008c004の試験映像、5版
s008c004の試験映像、6版
s008c004の試験映像、6版

作画の手順

試験の結果、頭の形を維持したまま首を上げるアニメーションをさせることは作画能力的に不可能だと判断しました。そこで、以下の手順で作画を行うことを検討しました。

まず、一枚の基本の絵を用意してから首から上を分離します。続いて、首の関節を基準点に幾何変換操作で回転させて、目的のアニメートを行います。この回転量は、試験映像を下敷きに、その動きを追随する形で決定します。最後に、目パチだけ描いて、カットを仕上げます。

幾何的にアニメーションさせた映像
幾何的にアニメーションさせた映像

確かに頭の形は維持されていますが、実に気持ち悪い、回転処理でアニメーションさせたことがまるわかりの動きです。

この手順を実際に試すと、幾何的に動かした映像は極めて気持ち悪い動きとなったので、これを一旦それなりになぞって、更に動画用の丁寧な線でなぞり直せば、それらしいアニメーションが完成するのではないかと考えました。

幾何的にアニメーションさせた映像をそれなりになぞって作ったアニメーション
幾何的にアニメーションさせた映像をそれなりになぞって作ったアニメーション

大分気持ち悪さが低減されました。まばたきも追加しました。また、首や口元など、変形する部分やマフラに隠れていたので描かれていない部分を修正しています。この時影も修正すればよかったのですが、結果は知っての通りです。

完成した動画による映像
完成した動画による映像

手描きアニメらしいブレが最初よりはずっと適切な量で付加されたと評価しています。

撮影処理

マフラの処理

このときは何も考えずに単純に首から上と胴体を別のセルに分けたので、顔の横に垂らしている髪と口元が同じレイヤになってしまい、胴体と合成するときにどうすればいいのかわからなくなってしまいました。単純に胴体のレイヤの上に頭のレイヤを乗せると、マフラの一部が侵食されます。

単純に胴体のセルに頭のセルを合成したときの例
単純に胴体のセルに頭のセルを合成したときの例

マフラの一部が隠れてしまっていることがわかります。

そこで、マフラの形にマスクを切って、顎の部分を隠すことを優先しました。すると、髪の一部もマフラの中に隠れてしまいます。

マフラの形のマスクを頭のセルに適用したときの例
マフラの形のマスクを頭のセルに適用したときの例

顎は上手くマフラのなかに隠れましたが、髪の毛も巻き込まれてしまいました。

ならば、髪の形のマスクを切って、マフラの形のマスクを削ります。こうして、本来の前後関係が再現されます。が、これはアニメーションに追随する必要があるため、髪のセルをわけたほうが賢明と考えられます。ですから、仁科の口パクでは髪のセルを分けたのです。

マフラの形のマスクを、髪の形に切ったマスクで削って作った完成形
マフラの形のマスクを、髪の形に切ったマスクで削って作った完成形
セルを背景に馴染ませる処理

セルに塗る色は大体こんなもんだろうと直感で決めているため、そのまま背景に乗せると著しく違和感があります。そこで、彩度調整を行って、背景との違和感をなくすようにしてみました。また、下が暗くなるグラデーションを付加して、セルの情報量を増やして、絵の中の情報量の多寡による違和感を低減することを試みました。さらに、全体に霧のような絵を薄く合成してなじませるようにしました。

セルを背景に馴染ませるために行った処理と単純な合成との比較画像
セルを背景に馴染ませるために行った処理と単純な合成との比較画像

左上の単純な合成に比べて、彩度を調整したり、薄く画像を合成することで得られた右下の完成画像のほうがずっとセルが背景に馴染んでいることがわかると思います。

s024c151 シュートを放つ白瀬

絵コンテとカット内容

151s024c151の絵コンテ用画像。

短いモーションでキーパーの脇の下を一瞬で貫くシュートを放ち、フィニッシュする白瀬。

このカットは段取りが変わったので絵コンテと全然違う感じになりました。この段階に入る前、白瀬はディフェンスの裏に飛び出して受ける、という動きだったのですが、変えたので現在の形になっています。コンテの段階の動きであると、白瀬の特徴を他のFWと分けて描きづらいことが理由です。

実際に製作されたカットでは、より遠くから鋭いシュートを放って決めているイメージです。

作画の難しさと対策

初期のs24c151の映像
初期のs24c151の映像

このカットは全カットの中で最も作画枚数が多く、全身が動いているので、前のフレームからコピーすることができないカットです。それでもやりたかったのは、フットボールが作品の中心にあるので、逃げるわけにはいかなかったからです。

難しさはまず「望遠レンズを使っていて奥行き方向に走っている」という部分にあります。人の走りを望遠レンズで描く時、横方向より奥行き方向の方が難しくなります。なぜなら、完全に奥行き方向に向かって走っている時、輪郭の変化は足の伸び縮みでしかないからです。これが横方向であれば、関節の曲げ角の変化を用いて描くことができますが、奥行き方向ではそれができません。

腕の振りも同様に難しくなります。特に白瀬のように訓練された全力疾走をする場合、手を両側に振り出す「女の子走り」を利用できないのでその難易度はさらに上がります。それでもこのアングルを選んだのは、現実のフットボール中継であり得る画角であることと、斜め上からの俯瞰よりずっと描きやすいという理由です。

また、白瀬のプレィモデルはクリスティアーノ・ロナウドです。彼はほとんど予備動作がなく、かつ小さな振りで強烈なシュートを放ちます。これをアニメで真似しようとすると、予備動作が少なくなるため、嘘くさい動きになるのです。また、彼は前傾姿勢でシュートすることが多く、これは後方から望遠で走る姿を描く時、下手なアニメータ、つまり今回動員されたたったひとりの素人アニメータが描くと、胴が極端に短く首のない気持ち悪い絵になってしまいます。

少しでもマシな絵を描くために、ULTRA-ACT ウルトラマンとfigma archetype:she fresh color verが動員されました。どちらも大変可動範囲の広い人形で、任意のボーズを取らせて後ろから見た時の様子を確認するのに大変便利でした。

また、夜な夜なシュートの真似をする不審者が、素人アニメータの自宅近所に出現していたことを書かないわけにはいきません。この時、蹴った足が軸足の前にきてコケそうになるという実にしょうもない経験が、シュートを放った後、右足で跳ね、長い滞空時間の間に足を回して体勢を立て直そうとする描写につながっています。が、それが上手くいったかというとご覧のとおりです。

本当はゴールキーパとディフェンスも描き、彩色して仕上げたかったのですが、時間切れでここまでの出来となりました。にも関わらず、秒8コマで作画したのですが、走りはお世辞にもなめらかとは言いがたく、肝心のシュートの前の軸足の踏み込みが表現できていなかったり、上半身が妙な動きをしているなど様々な問題を抱えた仕上がりとなりました。しかし、予定ではもっとひどいものになる予定だったので、少なくとも「向こう側に女の子が走って行ってシュートしてる様なんだな」とわかってもらえているようなので、その点は評価できると考えています。

s24c151の完成映像
s24c151の完成映像

s024c152 サムズアップする前森

絵コンテとカット内容

152s024c152の絵コンテ用画像。

軽くガッツポーズする前森。

作画が上手く行かなかったので欠番となったカットです。前のカットでシュートを決めた白瀬を見て、スルーパスを出した前森がガッツポーズをする、というカットだったのですが、白瀬に向かって親指を立てる演技をさせたほうがいいかなと思い、変えました。

アニメーションの試験

このカットで最も工夫したのは腕を突き出す動きです。腕を引く前動作の後素早く前に腕を突き出しながら親指を立てさせたかったのですが、ここには3コマ使い、さらに反動で引き戻す動きを入れてみました。始点と終点の2コマだと仁科の口パクが気持ち悪くなったときと同じ問題が起きることが予想されたので、途中に1コマはさみました。すると大変動きが重くなり、重った突き出し速度ではありませんでした。そこで、秒間16フレームとして、中コマ以外は2コマずつ表示、中コマだけ1コマだけ表示すると思い通りの速度になりました。

c24c152のアニメーション試験映像
c24c152のアニメーション試験映像

こちらは全コマを等時間表示しています

c24c152のアニメーション試験映像
c24c152のアニメーション試験映像

こちらは腕の突き出し動作の中のコマを短くしています

欠番理由

まず、この時の前森の動きを説明できなかったのが大きいです。試験映像では、前森は立ったままサムズアップしていますが、歩きながら出したほうが自然だと考えました。しかし、そんなことをすると本当に全身を動かさなくてはなりません。一方で、試験映像の右腕が全く見えないのは大変違和感があったのですが、どう動かしたらそれが拭えるのかわかりませんでした。ポニィテイルの動きも同様です。また、斜めから見た絵なので、どうも形を上手く描くことができず、素人アニメータにはまったく不可能な仕事であると判断し、欠番にしました。

s31c187 力説する白瀬

絵コンテとカット内容および欠番理由

187s024c187の絵コンテ用画像。

白瀬「わたしは君がわたしと同じように勝ちたいと思っていると思うから」

こちらも作画が上手く行かなかったので欠番となったカットです。ただの口パクは仁科に担当してもらったので「響け!ユーフォニアム」の第10回「まっすぐトランペット」の高坂麗奈とまったく同じタイミングを使えば描けるだろうと高をくくっていたのですが、ちょっと斜めにした途端格段に作画が難しくなり、c151に労力を裂きたかったため、断念しました。

s31c187の原画作業中のスクリーンショット
s31c187の原画作業中のスクリーンショット

座っている島津を見つつちょっと上目遣いで怯えつつ、なんて演技を付加したのも作画の難しさに拍車をかけました。真正面を向くとこの演技ができないため、簡単なコンテと同様な絵をつくることも考えから外しました。

絵の描けない素人がアニメを作るために気をつけるべきこと

絵が描けもしないのに、アニメを作ろうとするならば、まず品質を諦めるべきです。ちょっと動けばそれでいいのです。無理な目標を立ててはいけません。

そして、作るカットを適切に吟味すべきです。とにかく動きの少ないカット、枚数が少なくても入れ替えで時間の持つカットに限定しましょう。これは鉄則です。また、基本的には平行投影以外の画角を選ぶべきではありません。広角レンズはアニメートを極端に困難にします。できるだけまっ平らな絵作りを心がけましょう。さらに、動きはわかりやすい、関節を基準点とした移動と回転で成り立つものにすべきです。奥行き方向への移動、回転軸が画面に対して縦になる回転などは避けなければなりません。

さらに、セル部分の作画作業に時間を割くために、他の部分を可能な限り省力化、自動化すべきです。いかに仕上げと撮影を適当に済ませられるかにセルの作画部分の品質はかかってきます。素人なのですから、このような時間配分で構いません。

また「工程の美しさ」を重視してはいけません。最終的に動いて見えればよいのです。間違っても「俺は前のフレームからコピペなんかしない」などといったひねくれた尊厳を振りかざしてはいけません。他人の描いた絵を許可なくトレスしたりといった言語道断な行為を除いて、どんな汚い手を使うことも考慮にいれるべきです。重要なのは完成することです。もっといい方法が、このツールを使ってもできるはずだ、そんなことを考えるより、使えそうなものを使った方が完成は早まり、結果的に修正の機会は多く与えられ、品質は向上します。

c024c152から走りの部分だけを繰り返した映像
c024c152から走りの部分だけを繰り返した映像

こちらは秒8コマで4コマを繰り返しています。

くわえて、よく参考になるカットを商用アニメをコマ送りして研究すべきです。最後の走りのカットもより良い商用アニメを参考に修正すれば、ずっとなめらかな動きになりました。参考映像を分析する手間を惜しんではいけません。

c024c152から走りの部分だけを繰り返した映像
c024c152から走りの部分だけを繰り返した映像

こちらは秒12コマで7コマを繰り返しています。全体を描いてないのでチラついて見えますが、より自然な走りになっていることがわかると思います。この修正は秒8コマ版の各コマ間に1コマずつ適当に足元などを描いて行いました。「翠星のガルガンティア」の第5話「凪の日」の終盤において、エイミーに投下されたレドがお使いのために走っていくカットをコマ送りして、秒12コマかつ1周回7コマを割り出して作画しました。

それから、各工程にかかる時間をよく読むことです。スケジュールが人質に取られているのです。出来上がらなかったらなんのために描いたのかわかりません。特にはじめての場合は、見積もりを大きくとりすぎるということはありません。研究開発の時間も存分に確保しましょう。小さな目標を確実に達成し、残り時間を大きな目標のためにつかいましょう。今回の場合、一ヶ月近く、白瀬のシュートに使いました。他の部分は一ヶ月で作ったと考えてよいので、どれほど白瀬のシュートにかけているかわかると思います。

最後に、月並みですが、全工程で時間の許す限りの全力を尽くすことです。そうすれば、最終的に30%ぐらいの出来にはなります。

むすび

この記事では、はじめに素人がアニメを作るために講じた製作工程の効率化手法を説明しました。また、実際に製作したカットを題材にさまざまな工夫点や注意点を解説しました。さらに、経験から考察できる、素人がアニメをつくる際に気をつけるべきことについて記しました。

ご本人にご迷惑がかかるといけないので、お名前は伏せますが、相談に乗ってくださったり、応援してくださった本職のアニメータの方々と自主アニメの先輩方にこの場を借りて御礼申し上げます。

最後に申し上げなければならないのは、もし「彼らと彼女たちの物語を見たい人がいるなら是非協力してほしい」ということです。企画の概要はおってお知らせしていきますので、是非FILMASSEMBLER公式Twitterをフォローの上、気長にお待ちいただければと思います。