客観的に写真用レンズを比較するために必要な、レンズについての情報の読み方

トップ画像

まえがき

新たにレンズを調達するときには、ほとんどの場合、レビューや製造元の提供する情報、そして値段を信じて選択することになると考えられます。レビュアの主観を交えない客観的な情報は情報と値段ですが、値段はともかく情報を読み解くにはいくらかの知識が必要になります。このエントリではレンズ情報の入手方法、読み方、そして評価方法について書きます。

レンズの情報は製造元が提供するものと外部が提供するものがあります。わたしたちは、製造元以外が提供するレンズの情報として、photozoneおよびDxOMarkが提供する情報をよく利用しています。

レンズ選択における注意点

情報を使用してレンズを選択する際には、レンズに対して求める性能の優先順位を決めることが大切です。大きくわけてレンズの評価軸は解像度、収差、色の三種類がありますが、そのすべてを高いレベルで両立させたレンズは数えるほどしかありません。したがって、大抵の場合は自分がほしい焦点距離域の理想的なレンズの選択肢はありません。ですから、レンズの評価のうち、何を優先するかを考えておかなければなりません。

例えば何よりも解像力が重要だとあなたが思っているのなら、下に示す画像を見てください。

オリジナル画像
オリジナル画像

この画像に対してソフトフィルタを適用し解像力を低めた後に明暗差調整を行った画像を下に示します。

明暗差調整とソフトフィルタを適用した画像
明暗差調整とソフトフィルタを適用した画像

これは個人の哲学の問題です。わたしは同じ条件下で、二つのレンズが、それぞれ上に示した二つの画像を出力するのなら、後者の画像を出力するレンズを選択します。映画は、ルーペを使って鑑賞されるものではなく、映像に関する知識を持たない人が見るものです。また、これが光学的な違いをデジタルで模倣した参考画像による比較だということを忘れないでください。実際はレンズの選択によって明暗差が高まっても、単純に情報量を損失するわけではありません。

明暗差は最終的に調整することである程度補正できるから、あるいはより画面解像度の大きい静止画像を切り出して映像に含める時におきる品質の変化を考えて、撮影時には解像力を優先する、という考えもあることが予想できます。

解像力と明暗差の関係性だけではありません。わたしは、広角レンズを多用しますが、そのときは歪曲収差の少ない、極力、直線が直線のままに写るレンズを選択したいと思います。しかし、「ダークナイト」でクリストファー・ノーランとウォーリー・フィスターは歪曲収差の激しいレンズを使用しています。情報に優先順序をつけるのはあなた自身です。

レンズの製造元が提供する情報の読み取り方法と評価方法

レンズについての情報の多くは2軸以上の情報群で提示されます。これは、レンズというものが特性上、画面中心で最も高い性能を発揮し、中心からの距離によって性能が変化するためです。また、絞り値、焦点距離によっても性能は変化するため、レンズについての情報は2軸以上の情報で提示されます。

特に注意しなければならないのは自分が使うカメラの撮像素子がレンズのどの部分まで使うかということです。下に示す図は35mmフルサイズのニコンFXフォーマットとAPS-CサイズのニコンDXフォーマットの大きさと、それぞれの撮像素子において、16:9のHD撮影時に使われる範囲、そして撮像素子中心からの距離を表したものです。

撮像素子と使用範囲および撮像素子中心からの距離の図
撮像素子と使用範囲および撮像素子中心からの距離の図

括弧内は撮像素子の大きさの設定に使用したカメラの機種名です。また撮像素子の大きさは製造元の公称値に基づきます。灰色で塗りつぶされた部分はそれぞれの大きさの撮像素子において中心を維持して、最大の撮像面積で横縦比16対9の画像を撮像した際に使用される部分を示しています。厳密に正確な図ではありません。参考程度にお使いください。

上に示した図からは、APS-Cサイズの撮像素子ではレンズの中心から13mm程度離れた部分までしか使用されないことがわかります。したがって各種の情報を読み取るときにその外側を気にする必要はないといえます。

今回対象にするレンズはCarl Zeiss Distagon T* 2/25です。 コシナによる製品ページには性能表として4つのグラフが掲載されています。

4つのグラフのうち、F=2.0およびF=4.0という図題がつけられたグラフは、MTF曲線と呼ばれる、レンズの解像度を表すグラフです。このグラフの縦軸において、値が高いレンズは、解像度が高いレンズといえます。線は3群ありますが、これは極めて専門的な内容を含んでいますので、説明しません。一般的に上の方にある線は明暗差の高さを、下の方にある線は解像力の高さを示しています。「平らな線がグラフの上の方に走っている」グラフはそのレンズが、画面全域にわたって高い解像度を持っているということを示しています。

ディストーションという図題がつけられたグラフは歪曲収差、つまり「真っ直ぐな線が歪まずに真っ直ぐに写るか」ということを示しています。このグラフは歪みの大きさをパーセンテージで表現していますので、中心の0.0が理想的な値となります。したがって、「平らな線がグラフの中心を射貫いている」グラフは そのレンズが、画面全域にわたって歪曲収差がよく補正されていることを示しています。

最後に残された周辺光量低下率という図題がつけられたグラフは、「画面の中心から離れるにしたがって、どれだけ画面が暗くなるか」ということを示しています。このグラフは光量の維持率をパーセンテージで示していますので、最上値の100が理想的な値となります。したがって「平らな線がグラフの上の方に走っている」グラフはそのレンズが、画面全域にわたって同じ光量を維持できることを示しています。

photozoneが提供する情報の読み取り方法と評価方法

レンズの製造元の出す情報は会社によって、その種類に違いがあり、また種類も少ないことがあります。より多くの情報を必要とする場合は、photozoneなどが提供する評価情報を使用します。

photozoneが提供する評価情報は各レンズ批評の2ページ目、Analysisの節にあります。その最初の項であるDistortionsにはレンズの歪曲収差を示した図が示されています。この図は実際の歪曲を黒い格子線で表現したもので、縦方向に走るマゼンタの直線と横方向に走るシアンの直線を使って、この歪曲収差の情報表現を評価することができます。また図の左下にあるSMIA TV Distorsionの値は歪曲収差をパーセンテージで表現しており、この値が小さいレンズは、歪曲収差がよく補正されていることを示しています。値の後に記された語は、歪曲収差の形を示しています。

次のVignettingの項はレンズの周辺光量低下率について解説しています。示されている棒グラフは横軸に絞り値をF値で、縦軸に周辺光量低下率をEV値で示しています。したがって、棒グラフの高さが低いことはレンズの画面周辺における光量低下が低いことを示しています。また、このグラフからは、このレンズの場合F5.6まで絞れば、画面周辺における光量低下を限界近くまで低減できることもわかります。これは実際にレンズを運用するときにも役立つ情報です。

続くMTF (resolution)の項は、レンズの解像度について解説しています。示されている棒グラフは横軸に絞り値をF値で、縦軸に解像度を数値化して示しています。それぞれのF値において棒が3本が存在するのは画面中心からの距離の違いです。このグラフにおいて、棒グラフの高さが高いことは、レンズの解像度が高いことを示しています。また、このグラフからは、このレンズの場合F5.6まで絞れば、解像度を最大限高められることもわかります。これは実際にレンズを運用するときにも役立つ情報です。

最後のChromatic Aberrationsの項は、レンズの色収差について解説しています。色収差の発生原因は専門的な内容ですので省略しますが、その影響は色がずれて画面上に表現されてしまう異常としてあらわれます。示されている棒グラフは横軸に絞り値をF値で、縦軸に激しく明暗差が変化する場所において異常な色がどれだけ出ているかということを、ピクセル数で示しています。したがって、棒グラフの高さが低いことは、色収差が少ないことを示しています。

DxOMarkが提供する情報の読み取り方法と評価方法

DxOMarkが提供するレンズの評価情報は、総評がわかりやすく数値化されることに特徴がありますが、一方でレンズを装着するカメラそれぞれについて評点を計測していますので、実際に使用するカメラでの性能を見たい場合は適宜mounted onの項目を選択する必要があります。また、photozoneに比べ試験されているレンズが豊富であり、直感的にわかりやすい評点を示しているという長所があり、一方で、レンズの設定値を変えた際の各評価の変化が様子がわかりづらいという短所があります。

DxOMarkの最大の特徴である数値化されたレンズの総評はDxOMark Scoreという部分に示されます。ズームレンズの場合、DxOMarkはそのレンズで最も性能の高い焦点を示し、それは評点の左隣にBest at f=という形で書かれます。また、わたしたちの経験からすると評点が20を超えたカメラとレンズの組み合わせば充分に高品質といえ、25を超えているカメラとレンズの組み合わせは高性能といえ、30を超えていればかなり高性能のカメラとレンズの組み合わせといえます。極めて高性能のカメラとレンズの組み合わせですと、40を超えることがあります。なお、DxOMark Scoreは以下に記すレンズにおけるそれぞれの性能をDxOMarkの基準で数値化した上に、さらにDxOMarkの基準に基づき総合的に評価したものであり、確かに高性能のレンズではスコアが上がりますが、様々なバイアスがかかった値です。また、歪曲と周辺減光が評価基準にある時点で、最も高いスコアを獲得できるのは、標準から中望遠の焦点距離を持つレンズであることが決まっています。したがって、それほど神経質にすべきではない性質のものです。

Lens Metric Scoresはレンズの各種性能を数値化したもので、これらを総合的に評価した値が、DxOMark Scoreとして示されます。各項目の簡単な解説を以下に記しますが、より完全で正確な情報を入手したい場合は、各項目名の右にある?マークのリンクをクリックしてください。

最上段のSharpnessの項目はレンズの解像度を表すもので、DxOMarkはこれをPerceptural Megapixel(P-Mpix)という単位で示しています。P-Mpixは実用画素数といった意味合いの値です。解像度の低いレンズを使った際に、カメラの撮像素子が持つ数多くの画素はひとつひとつがすべて像を細かく描き出すのではなく、潰れていくつかの画素は像の輪郭を構成する一要素になってしまいます。P-Mpixはそういった形で画素が潰れた際にいったいどれぐらいの画素の撮像素子を持つカメラと同じ程度の解像度になってしまうのか、ということを示す単位です。例えば、2400万画素の撮像素子を持つカメラと、とあるレンズの組み合わせが、13P-Mpixであるのなら、これは1300万画素の撮像素子を完全に活用するカメラと同じぐらいの解像度になる、ということです。この値は、高いほど優秀であり、10P-Mpixを超えていればかなりよい性能と言えます。15P-Mpixを超えているのなら、極めて良い性能と言えます。なお、この値は充分に高性能のレンズであれば、カメラの撮像素子のもつ画素数が大きいほど高まりますが、撮像素子のもつ画素数が大きい程、P-Mpixは撮像素子のもつ画素数よりも大きく低下する傾向にあります。つまり、1000万画素の撮像素子を持つカメラで5P-Mpixと計測されるレンズを2000万画素の撮像素子を持つカメラに取り付けても、10P-Mpixより低い値が計測されるということです。

Transmissionはレンズの透過率を表しており、つまり周辺減光が絞り値に換算して、どれだけの大きさになるかということを示しています。当然この数値は低ければ低いほど、高い性能のレンズと言えます。なお、絞り値がTで表されていますが、基本的にFと変わらないと考えて構いません。Fがレンズの焦点距離と有効口径で示された、レンズを構成するガラスの透過率や表面反射率を無視した値であるのに対し、Tは実際にどれだけの明るさかを総合的に評価して示しているものです。

Distortionは歪曲収差を示した値で、当然0に近い方が評価は高くなります。

Vignettingは解放での周辺減光を示した値で、当然0に近い方が評価は高くなります。

Chr.aberrationは色収差を表しており、当然0に近い方が評価は高くなります。

その他の参考になる情報

今まで様々な情報を見てきましたが、これら情報はレンズの性能のある一部について評価しているに過ぎません。レンズを実際に使用せずに、より詳しくレンズの性能を予測するために、レンズコーティングの種類を使うことができます。レンズコーティングによる映像の変化は数値化されているものではありませんが、状況における明暗差の変化に対して大きな影響を及ぼします。優れたレンズコーティングは、逆光時の明暗差低下を軽減します。また製造元によるコーティングの違いは、映像の色合いに影響を与えます。

コーティングの違いによる映像の変化は、残念ながら定式化されたものではありません。したがって、レビューを見たり、自分たちの経験からその特性を掴んでいくことをお勧めします。わたしたちも経験上、シグマのコーティングは特徴的な青色が出るということや、カール・ツァイスのT*コーティングは色のりが良く、明暗差を高める、といったことを知っています。

画像処理を前提としたレンズの設計とその評価について

デジタルカメラを前提として開発されているレンズの中には、歪曲収差を無視して、周辺光量の低下を防ぐよう光学設計を行い、撮影時にカメラ側で画像処理を行い、歪曲収差を補正するものがあります。そういったレンズは静止画の撮影に問題がなかったとしても、動画を撮影する際に歪曲収差の補正が行われないことがありますので、注意が必要です。特にレンズの評価を静止画で行っている場合もありますので、可能であれば動画で試験することも考えるべきです。

むすび

この記事では、主にレンズについての情報の読みとり方法と評価の基準について説明しました。