効率的な低予算映画撮影のために、自分たちのための撮影手順書を作る

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まえがき

映画に費やせる金額が小さく、時間の余裕がないとき、映画の品質を高めるためにできることは、失敗を減らし、いつも最良の判断を下すことです。そのためには、撮影現場で考えることをできるだけ撮影前に考えておき、その結果を参照するだけで済むようにする必要があります。

この記事では、撮影手順書の意義について述べ、その作成方法や発展のさせかたについて説明します。

なぜ撮影手順書が必要なのか

撮影手順書は失敗を防ぐためにある

映画を撮影している時、予算が無限にあるわけでないかぎり、現場は時間に追われています。限られた時間のなかで、必要な素材をすべて収録し、またそれを高い品質で行おうと全員が一所懸命になっています。しかし、予想外のできごとに見舞われて、どういった行動を取ればいいかわからなくなってしまい、監督やその他の現場の責任者に指示を仰ぐ、そのような事態は十分に予想できます。そのとき、撮影手順書は、何の意味も持ちません。頼れるのは、現れた状況に柔軟に対応することのできる、生きた人間だけです。

しかし、それは撮影手順書が不要であることを意味しません。わたしたちが撮影手順書を必要だと考えているのは、わたしたちが自ら擁し、誇る技倆を持つ、職人や技術者達の集中力を、まったく信用していないからです。当然、わたしたちの職人や技術者は、数多くの専門的な問題について、高度で正確な判断を、単独で行う能力を持っています。だからといって、彼らを過信することはできません。彼らの思考は、存在が予定されていた検討事項によってほとんどの領域を使い尽くされていますから、湧き出る予想外のできごとに対応していけば、当然気を配るべきことがらに、気を配ることを忘れてしまう取りこぼしは必ず発生します。

実際にわたしたちは何度も大きな失敗を経験しています。画面の中心部に巨大なゴミが映り込んでいるのに誰も気にしていなかったり、NDフィルタをつけっぱなしにして、露出アンダの映像を量産したり、と枚挙に暇がありません。しかし、身も凍るような寒さの中、寝る間を惜しんで撮影していたり、炎天下で数時間も何の遮蔽物もない船上で撮影していれば、そういった失敗は起きて当然です。

それならば、前掲した平凡な失敗を未然に防ぐために取るべき行動を明確な文書として記し、それを参照して撮影を進めれば良いとわたしたちは考えています。失敗を防ぐために大事なのは、練度を信じることでなく、信頼という本質的に不安定なものに頼らなければならない状況を可能な限り小さくすることです。

撮影手順書への投資は最終的な映画の品質についての費用対効果を高める

徹底した訓練と準備を重ねて、機械的に撮影を進めることができれば、おそらく撮影手順書は必要ありません。しかし、撮影に必要な人員や場所、そして機材をすべて手配して、撮影の訓練をする予算や、現場での手順のすりあわせを行う余裕がない現状を、わたしたちは知っています。これはわたしたちにとってのみの事実ではなく、多くの低予算映画の制作現場での現状であると、わたしたちは想定しています。

どんなに優秀な監督や現場の指揮者であっても、撮影現場で起きるすべての事柄を把握して事前に備えることはできません。けれどもそれは、準備が無駄であることを意味するものではありません。準備されていることが、準備されていないことを少しでも減らし、ひとりひとりが対応できない問題を自力で解決できることは、最終的な映画の品質についての費用対効果を高めるからです。

優秀な監督や現場の指揮者は、巧みに問題を解決することが予想できますが、大抵の場合彼らはひとりであり、様々なことが同時に展開する撮影現場において、彼らによってのみ早期にすべての問題を解決することは、資源上の問題から不可能であると断定できます。さらに、彼らの時間を問題への対応に使用すれば、彼らが本来品質を向上させるために使用できた時間は少なからず失われます。そしてその映画の品質を高めるために使える時間は、撮影しているその時にしか手に入らない時間なのです。その時間を手に入れるために、前もって時間を費やして撮影手順書を作ることは、決して無駄ではありません。

撮影手順書は、現場で働く大勢の人々が問題を自力で解決し、監督や現場の指揮官に撮影時にかかる負荷を低減するために作られるべきです。その投資は、最終的な映画の品質として確実に回収できます。

撮影手順書の作成とその運用

できるだけ小さくまとめる

撮影手順書を作る際に一番大切なことは、参照しやすくすることです。参照しにくい撮影手順書は、忙しい撮影現場で参照されなくなるため、価値がありません。

したがって、撮影手順書を作る際に一番最初にすべきことは、書くべきことをすべて書く一方で可能な限り小さくまとめることです。なぜならば、撮影手順書が大きくなると、携帯したり、参照する手間がかかるようになるからです。

理想は、葉書くらいの大きさの紙に、容易に参照可能な大きさの文字で収めることです。こうすると、名札入れに入れて首から撮影手順書を下げたり、腰に取り付けたりして携帯することが簡単になります。

上から読み始めて、下まで読むようにする

撮影手順書を参照しやすくするために、一番大切なのは、上から読み始めて、下まで読むだけでよくなっていることです。そうしておけば、撮影手順書があるのに読み損ねてしまう、という失敗を回避できます。

例えば括弧書きや、注釈、相互参照などは、この原則を破壊するので、使ってはいけません。

仕事別にわける

撮影手順書を小さくまとめるために最初にできることは、撮影手順書を仕事別にわけることです。これは最も単純で効果を得られます。

しかし、簡単ではありません。第一に、撮影の手順にはその仕事をする人がすればよいことと、皆がしなければならないことがあります。したがって、撮影手順書にも、個別部分と共通部分ができます。これを一つの紙にまとめることを要求されるわけですが、とうぜん撮影手順書を作っていく間に、共通部分が更新されます。すべての版の撮影手順書で共通部分をそろえないと混乱の元になりますから、これを適正に管理して撮影手順書を作る必要があります。

また、撮影手順書の共通部分と個別部分は、上から読み始めて、下まで読むようにすると、きれいに分割できなくなる筈です。つまり、共通部分と個別部分が不規則に登場するということです。従って、単に共通部分と個別部分を分割して書いておいて、最後に切り取りと貼り付けで済ませれば簡単に済むというわけにはいかないことが十分に考えられます。

当然踏むべき手順を書く

撮影手順書の作成は、作った人間にとって当然踏むべき手順を書き連ねることから始まります。当然踏むべき手順を、撮影手順書から完全に削除してはなりません。撮影手順書は当然踏むべき手順を忘れてしまって失態を演じることのないようにするために書かれるのですから、その手順を忘れてしまうような書き方をしてはいけません。

この段階では、実際に機材を操作して、取扱説明書を傍らにおいて慎重に手順を書き連ねます。繰り返しになりますが、文章から装飾を消して必要最小限の記述に止めることは大切ですが、どんな些細な手順でも必要ならば、完全に撮影手順書から消してはいけません。

想像して書く

また撮影手順書を書いているときに、その手順ひとつひとつにどんな判断が含まれているか、考えるべきです。どういった状況の時にどういった判断をする必要があり、その時の判断基準はどんなものか、ということも書くべきです。

この作業を不必要に広げると、予定していた撮影手順書の大きさに収まらなくなるかもしれません。そういったときは、自分たちの撮影に費やせる人員に対して無理な仕事量を科している可能性も考える必要があります。最悪の場合は、天候や時間帯、場所といった大きな括りで、撮影手順書を分割しかないかもしれませんが、これは最後の手段です。

さらに詳細に踏み込んだ手順書をつくる

常時携帯する撮影手順書を作り上げた上で、さらに作品の完成度を高めるためには、全カットの撮影における設計図を作ってしまうこともできます。

その用途によく使われる絵コンテです。絵コンテは画面の設計図であり、完成した画面の想像図から人やカメラの動きがわかりますから、撮影を更に最適化できます。

次に示す画像はわたしたちが、The Escape Velocityで使用した絵コンテです。画面の中に誰がどのように写るのか、そのカットの中で物語をどれだけ進めるのかわかるようになっています。

The Escape Velocityで使用された絵コンテです。
The Escape Velocityで使用された絵コンテです。

次に示す画像もわたしたちが、The Escape Velocityで使用した絵コンテです。いつ撮るのか、誰が写るのか、時間帯はどうなのか、どんな衣装が必要なのかなどの情報が書いてあります。また、文字が活字になったため大変読みやすくなりました。簡単な演出意図も書いてあります。

The Escape Velocityで使用された絵コンテです。
The Escape Velocityで使用された絵コンテです。

次に示す画像はわたしたちがINTERCEPTORで使用した絵コンテです。またそのカットがどんな意味を持っているのか、どういった意識を役者にもっていてほしいのか、ということも書かれています。量が膨大だったので、HTMLで記述され、ウェブ上で閲覧することができるようにしてありました。

INTERCEPTORで使用された絵コンテです。
INTERCEPTORで使用された絵コンテです。

また、絵コンテよりも深く、ひとつひとつのカットに関連する情報をあらかじめすべて書き込んでしまった書類を作り、可能な限り現場でしなければならない決定を先にしてしまう方法もあります。この作業は大変な労力を必要としますが、現場での判断の余裕を大きく作ることができますし、撮影現場での時間の浪費も防げるので、大変効果的な手段です。

次に示す画像はわたしたちがPathfinderで使用した、拡張された絵コンテです。使用する2台のカメラがそれぞれどんな絵を撮影すべきか、ラフな絵と、実際の写真から起こした完成画面の想像図を用意して、実際の映像がどれだけ想像図に依存していなければないかを示し、レンズの種類や録音の方法など、この撮影において必要な事項について、細かく書いてあります。

Pathfinderで使用された、拡張された絵コンテです。
Pathfinderで使用された、拡張された絵コンテです。

最後に述べますが、撮影手順書について、誤解してはならないとわたしたちが考えていることが二つあります。一つ目は、この手順書に従わなければならない、ということはまったくない、ということです。夕日が綺麗なら迷わず手順を変えるべきです。そして二つ目は、手順書が無駄になるという短絡的な判断に基づいて、手順書を作らずに貴重な撮影の時間を無駄にすべきではないということです。

むすび

この記事では、撮影を効率化し映画の品質を高めるために撮影手順書が有効であることを示し、その作成手順と発展のさせかたについて解説しました。