動画を撮影するために構築する撮影システムに、最適なレンズのマウント形式を選択する

トップ画像

まえがき

あなたがレンズ交換式のカメラをまだ持っておらず、新たにレンズ交換式のカメラを用いた撮影システムを構築する金銭的な余裕があるのなら、優先的に構築すべきです。しかし、レンズ交換式のカメラを新たに導入する際は、どのレンズマウント形式を採用するか選択しなければなりません。

この記事では、レンズマウント形式の選択時に考慮すべき要素を示し、いくつかのレンズマウント形式について簡単な解説を行います。また、わたしたちが採用しているレンズマウント形式とその採用理由について簡単に紹介します。

なお、レンズマウント形式の選択には非常に多くの要素が関係します。この記事は、そのごく一部を詳細に解説するのみであって、実際のレンズマウント形式の選択に必要な評価を決定するものではありません。

レンズマウント形式の選択に関わる重要な要素

技術面

撮像素子の大きさ

レンズマウント形式による技術的な違いの一つに、そのレンズマウント形式に対応したカメラの撮像素子の大きさがあります。レンズマウント形式によって、撮像素子の大きさは一定ではありませんが、撮像素子の大きさはレンズマウント形式と関わりの深い要素です。撮像素子の大きさの違いは、いくつかの影響をあなたの撮影システムに与えます。小さな撮像素子は、被写界深度が比較的深いため、ピンぼけしにくくなります。また、レンズの選択肢が比較的多くなる上、画質面で長所があります。対して、大きな撮像素子は被写界深度が浅くなりやすいため、映像はピンぼけしやすくなります。さらに、レンズの選択肢が少ないという問題があります。

これらの違いのうち、被写界深度の変化が生まれる仕組みを知るために架空のレンズAを導入します。レンズAは絞りとには二つの定数、画角B、ボケ味Cがあります。

撮像素子の大きさと画角の関係
撮像素子の大きさと画角の関係

上に示した図からは小さな撮像素子Dは大きな撮像素子Eの撮像範囲に完全に収まっていることがわかります。したがって、撮像素子が小さい場合は画角Bは望遠よりに狭くなり、撮像素子が大きい場合、画角Bは広角よりに広くなる、ということがわかります。

この事実は、小さな撮像素子Dで大きな撮像素子Eと同じ画角を得るには、より焦点距離の短い、広角側のレンズが必要であり、逆に大きな撮像素子Eで小さな撮像素子Dと同じ画角を得るには、より焦点距離の長い、望遠側のレンズが必要であるということを示しています。くわえて、被写界深度には、焦点距離が短いほど深く、焦点距離が長いほど浅いという性質があります。これらの事実は、同じ画角の映像を得るときに、撮像素子が小さいと被写界深度は深くなり、撮像素子が大きいと被写界深度が浅くなることを意味しています。

被写界深度が深いことは、劇映画の撮影において、役者が撮像素子に対して奥行き方向に移動した際に、焦点から外れてピンぼけになりづらくなることも期待できます。

また、小さな撮像素子のために開発されたレンズは、大きな撮像素子の全体にわたって像を結ばない可能性や、周辺部の画質が大きく低下している可能性があるため、基本的に小さな撮像素子でしか使用することができません。一方で、大きな撮像素子のために開発されたレンズの中央部の極めて高画質の部分のみを、小さな撮像素子は使用することができます。レンズの選択肢については要求性能と入手可能性の項も参照してください。 さらに、レンズの中心部と周辺部における画質変化については客観的に写真用レンズを比較するために必要な、レンズについてのデータの読み方も参照してください。

このほかに、撮像素子の大きさの違いは、高感度撮影における雑音に影響を与えることがあります。一般的に大きな撮像素子は高感度撮影において、雑音が少なくなると言われています。ただし、現在の撮像素子の改良と、雑音除去アルゴリズムの改良はこの一般論を単純に適用することを難しくしています。このため、この記事ではこの問題についての解説はしません。しかし、依然として同世代のカメラを比較したとき、撮像素子の大きさは雑音量と反比例する関係にあるといえます。

なお、大きな撮像素子を前提としたレンズマウント形式は、より小さな撮像素子にも対応しています。

クイックリターンミラーの有無

一眼レフカメラは、撮影される像とファインダに写る像を一致させるためにクイックリターンミラーという部品を備えています。シャッタが切られる直前にこの部品は跳ね上がって、ファインダへと送っていた光線を撮像素子へと向かわせます。この部品はレンズ設計に大きな影響を与えます。マウントと撮像素子との間に、この部品の稼働に必要な空間を確保する必要があるため、レンズの後玉はこの部品より前に存在しなければなりません。また、レンズを取り外したときに重要な光学部品であるクイックリターンミラーを不慮の事故から防ぐためにも、筐体の剛性を確保するためにも、マウントは大体レンズの後玉よりも少々前方にあります。

このため、バックフォーカスを短くする必要がある、対称構成型の広角レンズはクイックリターンミラーの存在を前提としたマウントのために作られることはありません。対称構成型の広角レンズは、バックフォーカスを長くできる逆望遠型の広角レンズに比べ、歪曲収差が少ない傾向にあります。この事実は歪曲収差の少ない対称構成型の広角レンズの使用を希望するときに、マウントの選択に影響を与えるかもしれません。

経済面

マウントアダプタとフランジバック長

レンズマウント形式がそれぞれ違うカメラとレンズを組み合わせる方法には、マウントを交換する方法とマウントを改造する方法、マウントアダプタを利用する方法があります。マウントを交換できるカメラあるいはレンズは非常に少ない上、交換後に難易度の高い調整を行う必要がある場合もあり、現実的ではありません。マウントを改造する方法はそれに輪をかけて非現実的なため、現実的なのはマウントアダプタを使う方法のみとなります。

しかし、マウントアダプタを使えばあらゆるレンズマウント形式間に互換性があるわけではありません。組み合わせたいそれぞれのレンズマウント形式における、フランジバック長を比較して、カメラ側のレンズマウント形式のフランジバック長がレンズ側のレンズマウント形式のフランジバック長より十分に長い場合はマウントアダプタ自体でフランジバック長の差を埋めることで組み合わせることができます。しかし、その逆の場合は、無限遠に焦点を合わせることができなくなるといった問題が発生するため、基本的に利用できませんし、またマウントアダプタも存在しないことが多いのが実情です。

フランジバック長の短いレンズマウント形式を選択すると、マウントアダプタを使って多くのレンズマウント形式のレンズを使用できるため、レンズの選択肢は大きく増えます。また、既に所有しているレンズ資産を有効活用することもできます。

一方で、あらゆる条件下において最適なレンズマウント形式といえるマウント形式は存在しません。フランジバック長の長いレンズマウント形式を選択しておき、よりフランジバック長の短いレンズマウント形式にいつでも乗り換えられるようにしておくというのも一つの手として考えられます。

また、マウントアダプタは頻繁に取り外しすることが、考えられていない設計である場合があります。くわえて、マウントアダプタは多くの場合、カメラ及びレンズの製造会社の純正部品ではありません。

さらに大きい撮像素子のためのレンズを小さい撮像素子を持つカメラにマウントアダプタを介して取り付けると、レンズの中心部のみ使用するため、画角が望遠気味になります。ただし、一部の集光レンズを内蔵するマウントアダプタは画角を補正するため、この問題は発生しません。また集光を行うため、明るさが一段向上するという副次的な利点もあります。

要求性能と入手可能性

レンズマウント形式の選択には、カメラやレンズの選択も関わります。これは卵と鶏の関係であり、自分で評価軸に優先順位をつけ、総合的な評価をくださなければなりません。

また、この世に存在するすぺてのレンズが、すぺてのレンズマウント形式に対応しているわけではないという事実もレンズマウント形式の選択に関わってきます。

同時期に開発されたレンズである場合、ズームレンズの性能は単焦点レンズの性能を下回りますが、単焦点レンズは使い勝手が悪いため、種類が少ない傾向にあります。したがって、最新式のレンズマウント形式では、単焦点レンズの選択肢が著しく少なくなります。また、既にレンズ資産を保有している場合は、それを有効活用することも検討する必要があります。

汎用性

映画制作を専門に行う会社であるといった資金的に恵まれた環境でない場合、写真撮影の用途にもカメラを流用することは十分に考えられます。そして、その場合、映画の撮影にカメラを使うことよりも、写真撮影の用途にカメラを使うことの方が多くなることも十分に考えられます。

そういった条件下においては、写真撮影に求める条件等や写真撮影用カメラの選択も考慮に入れて、レンズマウント形式を選択する必要があります。例えば、体力に自信がない場合や常に携帯したい場合、装飾品としての美観を重視するといった場合、あるいはとにかく高画質を追求したい、という場合では、写真撮影用カメラの選択によって、全く違うレンズマウント形式を選択する必要があるかもしれません。

運用面

距離環の回転方向

距離環の回転方向と焦点の移動方向の対応は、実質的にレンズマウント形式の開発元によって決められています。このため、距離環を操作して焦点位置を設定することに慣れている撮影技師の場合、距離環の回転方向と焦点の移動方向の対応が慣れているレンズマウント形式と逆方向であることが、作業量や意欲を低下させるかもしれません。

レンズマウント形式のうち一部の紹介

本節では一部のレンズマウント形式の概要を紹介します。情報の正確性には細心の注意を払っておりますが、実際のレンズマウント形式の選択にあたってはカメラの情報と共にご自身で再度お調べください。

ニコンFマウント

ニコンイメージングジャパンが販売するカメラで採用されているレンズマウント形式です。対応する撮像素子の最大の大きさは、映画撮影の用途に現実的に供することのできる大きさとしては最大級の35mmフルサイズです。クイックリターンミラーの搭載を前提としています。

ニコンFマウントの最大の長所はフランジバック長が現行のレンズマウント形式の中でも最も長いことで、基本的な機能に限るならば、将来レンズ資産を他のレンズマウント形式に比較的簡単に移行できます。

反対に、最大の短所もフランジバック長が長いことで、ニコンFマウント以外のレンズマウント形式のレンズで使うことのできるレンズは非常に限られています。

レンズの供給者はニコンイメージングジャパンの他、コシナ(カール・ツァイスおよびフォクトレンダー)、シグマ、タムロンおよびトキナーなどがあります。

なお、本レンズマウント形式は1959年から使用され続けてきているため、時に使用できるレンズの種類が極めて多いことが長所とされることもありますが、古いレンズは性能が低い場合や、レンズマウントの機械的な形状が同一であってもその使用には制限があることもあります。最悪の場合、カメラやレンズを破損する可能性もあります。したがって、その特徴を過大評価すべきではありません。

キヤノンEFマウント

主にキヤノンが販売するカメラで採用されているレンズマウント形式です。対応する撮像素子の最大の大きさは、映画撮影の用途に現実的に供することのできる大きさとしては最大級の35mmフルサイズです。またクイックリターンミラーの搭載を前提としています。

キヤノンEFマウントの最大の長所はキヤノンが販売するEOS 5D Mark IIが小規模な映像作品の制作現場において業界標準となったことによって、本レンズマウント形式も業界標準となりつつあることです。近年、いくつかの有力なシネカメラがキヤノンEFマウントを採用しているため、それらのカメラシステムにもレンズを使用することができます。

レンズの供給者はキヤノンの他、コシナ(カール・ツァイスブランドおよびフォクトレンダーブランド)、シグマ、タムロンおよびトキナーなどがあります。

ソニーαマウント

ソニーおよびその関連会社が販売するカメラで採用されているレンズマウント形式です。対応する撮像素子の最大の大きさは、映画撮影の用途に現実的に供することのできる大きさとしては最大級の35mmフルサイズです。またクイックリターンミラーの搭載を前提としています。

ソニーαマウントの最大の長所は映像関係に強く、映画用カメラも供給するソニーのレンズマウント形式であるということで、ソニーの高価格帯ビデオカメラではソニー純正のマウントアダプタを介して本レンズマウント形式のレンズを使用できます。

レンズの供給者にはソニー(自社ブランドおよびカール・ツァイスブランド)の他、シグマ、タムロンおよびトキナーなどがあります。

ソニーEマウント

ソニーが販売するカメラで採用されているレンズマウント形式です。対応する撮像素子の最大の大きさは、映画撮影の用途に現実的に供することのできる大きさとしては最大級の35mmフルサイズです。またクイックリターンミラーの搭載を考慮されていません。

ソニーEマウントの最大の長所は35mmフルサイズの撮像素子を持ちながら、クイックリターンミラーの搭載を考慮されていないため、バックフォーカスの短いレンズを使用できることです。また、フランジバック長が極めて短い上に多種のマウントアダプタが販売されているため、数多くの種類のレンズを使用することができます。これらの特徴はあらゆる焦点域で最高の性能を発揮するレンズを選択できることを意味しています。

レンズの供給者にはソニー(自社ブランドおよびカール・ツァイスブランド)があります。

フォーサーズマウント・マイクロフォーサーズマウント

主にオリンパス、パナソニックが販売するカメラで採用されているレンズマウント形式です。対応する撮像素子の大きさは35mmフルサイズの約半分の大きさです。フォーサーズマウントはクイックリターンミラーの搭載を前提としていますが、マイクロフォーサーズマウントは搭載を考慮されていません。

フォーサーズマウントおよびマイクロフォーサーズマウントの最大の長所は被写界深度が深いことです。また、フランジバック長が極めて短い上に多種のマウントアダプタが販売されているため、数多くの種類のレンズを使用することができます。

なお、フォーサーズマウントおよびマイクロフォーサーズマウントはデジタルカメラ専用設計のため、フィルムカメラ用のレンズマウント形式を流用した際に起きる画質面での短所が解消されている、という長所があるとされることもありますが、近年の動静を見る限り、鑑賞の用途に供する場合において劇的な差はないといえます。

レンズの供給者はオリンパス、パナソニック(自社ブランドおよびライカブランド)の他、多岐にわたります。

レンズマウント形式の選択

わたしたちが採用しているレンズマウント形式とその採用理由

わたしたちは2013年9月時点でニコンFマウントを採用しています。その主な理由を以下に記します。

  • 将来レンズ資産が流用可能であること
  • 35mmフルサイズに対応していること
  • カール・ツァイスレンズの使用が可能であること
  • Pathfinder撮影時のカメラ選抜試験でニコンD7000がキヤノンEOS Kiss X4を上回る性能を発揮したこと
  • わたしたち自身による過酷な使用に対し、ニコンイメージングジャパンのカメラ製品は常に要求された性能を発揮してきたこと

なお、この記事はニコンFマウントを採用することを客観的評価に基づいておすすめするものではありません。

むすび

この記事ではレンズマウント形式の選択時に、技術面から撮像素子の大きさやクイックリターンミラーの有無を考慮すべきこと、経済面からいくつかの面を考慮すべきこと、また、運用面から距離環の回転方向について考慮すべきことを示しました。さらに、いくつかのレンズマウント形式について解説を行い、わたしたちが採用しているレンズマウント形式を紹介し、採用の理由について説明しました。